自由の代償
脚本:赤星政尚 演出:釆野晴樹
作画監督:川村敦子/小松こずえ/中野彰子/杜明芮
総作画監督:浅沼昭弘
★あらすじ
グローイングドーンのもとに行き倒れ同然で転がり込んできた男、曽根ハルオミ。
その素姓はコマンドラモンのサポ主であり、元タクティクスでした。
彼らは自由を求め、組織を脱走してきたのです。
そこへ、チームセブンが彼らを連れ戻そうと襲ってきました。
トモロウ達はハルオミの頼みを受け、偽の逃走車で相手を分断。
隙を衝く形で捕まったコマンドラモンを救助させようと試みます。
ところが威嚇のつもりで放たれたランフォモンの攻撃で、コマンドラモンは消滅。
トモロウはハルオミがパートナーを盾に使ったと思い彼を責めますが、
最初から「一人になる」ために状況を利用したと聞かされて愕然とします。
結局ハルオミはチームセブンに連れ去られてしまいますが、彼らが去った後
なんとコマンドラモンが現れます。彼は消滅していませんでした。
ハルオミの本当の狙いは相棒の擬態能力を駆使して消滅したと思い込ませ、
自分は捕まってもコマンドラモンだけは自由にしてあげることだったのです。
苦い思いを抱え、幼年期に戻ったコマンドラモンを預かるグローイングドーン。
一方、相棒を解き放つことができたハルオミは満足げな笑みを浮かべていました。
タクティクスに連れ戻された彼が送り込まれる地獄とは、どんなところなのでしょう……
★全体印象
18話です。
今回はトモロウの描写が多いのですが、ゲストキャラ主体の回でもありました。
EDもレーナ組が担当してるし、明確にトモロウ回とは位置付けられてないようです。
どちらかというとゲストのハルオミとコマンドラモンを通し、タクティクスの過酷さと
そこに所属している限り「自由」は得られないという事実がキモといえそう。
所属者は家にも帰れないという前回語られた描写も考え合わせれば、相当エグい話です。
あげく、望まぬ場所に送られ命令のままに働かされるわけで。
何かの軍門に降り自由を奪われるというのは、そういうことなのです。
この国で自由を当たり前のように享受してきた私たちには想像しづらいことですが。
詳しい語りは後に譲りますけど、人間に対してさえあの扱いです。
どのみち両方逃れるのは無理、なら相棒だけでも……とハルオミが考えたのは、
デジモンがもっと酷い扱いを受けることを肌で知っていたからなんでしょうね。
おそらくコマンドラモン以外にも、能力を利用されているデジモンは大勢いるはず。
状況を打破するためには、やはりタクティクスをぶっ壊すしかないのかもしれません。
今はまだ無理だし、それをやらないといけないだけの動機も主役側には足りませんが。
でも、どこかで事態は動くのでしょうね……次回も相当踏み込むみたいだし。
脚本は6話以来となる赤星さん。この前といい、割と浪花節なゲストを描きますね。
演出の釆野晴樹さんは「逃走中」にも参加していたみたいですが、演出としては
今回で初めてクレジットされたっぽいですね。
作画も毎度ながら力が入ってます。見どころはやはり廃工場内での戦いかも。
★キャラなど個別印象
・トモロウ
なんとも苦い手応えとなった今回。
ハルオミを終始疑ってかかっていた理由は語られてませんが、よく考えてみれば
グローイングドーン以外のデジモン持ちは大半ロクな手合いがいなかったですし、
ファミリーと認めた者以外を信用しきれないのは無理もないところかもしれません。
それでもハルオミを信じることができず、思わず殴ってしまったことは
彼の中で複雑なヒダを持つ記憶になったみたいです。
それに彼は信じられなかったけど、向こうはある意味「信じてくれた」形。
コイツなら、こうすればきっと怒ってくれるに違いない……と。
その通りになっちゃったわけですが。
実際、トモロウがあそこで感情的にならなかったら疑われたかもしれません。
信じきれなかったことが、むしろ結果に繋がったと言えてしまいます。
少なくとも、ハルオミの一番成し遂げたかったことは叶ったわけで。
そりゃあ複雑な気持ちにもなるでしょう。
まあ良い方に言えば、彼がこういうことに対して心から怒ることができる
「馬鹿」だから救われた面もあるのですが。
そういう意味ではライトのアンチテーゼになり得ましょう。
この経験が、後にどう繋がるかはわかりません。
でもきっと、彼の中で何かが積み重なったんじゃないかと思います。
こうでもしなければ自由が得られない、理不尽な現実への憤りのような。
すべての閉塞を叩き壊したいと願う、そんな何かが。
・ゲッコーモン → アルマリザモン
今回はトモロウの方がメインだからかドラマ面での出番は控えめですが、
バトルではまたも相手側の度肝を抜くことをやってのけています。
ニュートロンブレードとデスロールプレスの合わせ技はアニメならではだし、
おそらくランフォモンでは防ぎきれなかったでしょう。
・レーナ組
サブ寄りですが、ハルオミの作戦に合わせてきっちり行動していました。
連携など、こういう細かいところに経験値を感じるコンビですね。
トランクから顔を出して迎撃するウルヴァ姐さんもステキ。
・マコト組
前回目立ったぶん、メインどころでは一番サブに徹していました。
マコトのホタルコへの苦手意識が高まっちゃってるようで、見てていたたまれません
・キョウ
事件の間ずっと不在でした。ニリンソウで15話のトモロウと似た状態になってたのかも。
あの場所の存在が、彼に頼れないときがある状況をしばしば担保しているかも。
逆に言えば彼が最初っから出張ってること自体が何かのフラグになり得るんですが。
・吉村
ハルオミの替え玉として登場、偽逃走車(自前だけど)のドライバー役も担当しました。
この際、地味にサングラスを取った素顔も披露してます。思ったよりいい男。
若い頃はイケメンで鳴らしてたのかもしれませんね。
・曽根ハルオミ
影を背負ったロン毛の青年。
行き倒れているところをトモロウ達に拾われましたが、コマンドラモンは姿を消してたのと
セリフから、その状況自体はお芝居だった可能性が大です。
グローイングドーンだとわかっててやったかどうかには議論の余地があるけど。
その実態は上に書いた通り、タクティクスの脱走兵。
コマンドラモンの擬態能力を買われ、世界のあらゆる場所に派遣されてきました。
回想からわかる通り、生きるために誰かを斃してきた経験も多数あります。
描写はマイルドに調整されていましたが、地獄を味わった局面も少なくなかったはず。
修羅場だけならチームセブンより潜ってきているかも。
そんな中、彼が心を砕いていたのは自分よりも相棒のコマンドラモンに関してでした。
コマンドラモンが本当は戦い、ひいては殺しを好まない性格だったのは承知していましたから
このままではいずれこの相棒が「不要」と見做されるに違いないと判断し、
タクティクスを抜ける決断をしたのかもしれません。
グローイングドーンがデジモンをデリートせず、国民保護省にも引き渡さないと知ったときから、
彼は相棒をトモロウ達に託すと決めていたようでした。
結果として自分がどうなろうと、それはその時に考えればいいと思ったのかもしれません。
なぜそこまでしようと思ったのか。もちろんシンプルに相棒に自由を掴んでほしいから、
という動機は前提として、そもそもその「自由」自体を知ってほしかったのかも。
彼自身と違い、コマンドラモンはきっと生まれてから割とすぐに任務へ投入され、
一緒に釣りをするような穏やかな時間さえ許されていなかったに違いないのです。
ただ命令のまま戦い続けることしか知らないのでは、あまりに甲斐がない。
せめて自分の代わりに、自由というものを謳歌してほしい。そう考えたのかもしれません。
そんな彼だから、コマンドラモンも戦いを好まぬ個体として生まれたんじゃないでしょうか。
中の人は内山昂輝さん。子役出身で、年齢の割に声優デビューもかなり前です。
2010年代初頭から主役・メインキャラを歴任するようになった超売れっ子声優さんですが、
深夜放送がメインでニチアサに顔を出すのはちょっと珍しいかも。デジモンにも今回が初出演です。
しかしながら、その存在感はさすがと言えるものでした。
・コマンドラモン
ハルオミのパートナー。どのような感情で生まれたのかは不明です。
その擬態能力に目をつけられ、ハルオミと一緒に世界中を駆け回らされてきましたが
生来の優しさから戦うことへのモチベーションが低かった節が回想で描かれてます。
人間だってなりたくて兵士になったわけじゃないし、歩兵型だからといって
戦いを好むコマンドラモンばかりじゃないのかもしれません。
その擬態能力は完璧に近く、ゲッコーモンはおろかキロプモンでも全く気づけなかったほど。
一度身を隠せば、解除しない限り発見される恐れは少ないといえそうです。
相手方にも高い感知能力を持ったデジモンがいればまた別だったでしょうが。
そのぶん戦闘力は成長期なりのレベルしかないものの、人間相手なら充分みたいです。
ハルオミのことは「一心同体」と謳うほど慕い、二人で逃げることだけを考えていましたが
紆余曲折あって彼とは離れ離れになり、e-パルスも切れてボムモンに退化してしまいました。
おそらくニリンソウに保護されるのでしょう。あそこも絶対安全とはいえないけど、
タクティクスに連れ戻されるよりは遥かにマシなんでしょうね。
果たしてハルオミと再会できるときは来るのでしょうか……
中の人は阪口大助さん。初主演作「機動戦士Vガンダム」のウッソ・エヴィン役ほか
主役から味のある脇役に至るまで多数をこなしている方ですが、声に特徴があるので
割にわかりやすい人のひとりです。デジモンにも結構な頻度で出演しており、
前作「ゴーストゲーム」ではセミレギュラーの野村コタロウ役を担当していました。
歴任の中だと「アプモン」のハックモンはちょっと異質な方かもしれませんね。
・ライト組
イマイチまだトモロウ組への侮りが抜け切れてない挙げ句にやられかけた方々。
未遂に終わりましたが、たぶん14話以上にヤバい状態だったはずです。
おまけにグラニットやホタルコが貰えた掘り下げ回もまだ貰えてません。
まあハルオミ組に描写を掻っ攫われたせいですけど。
ライトの言う「感情はコントロールしてこそ、命令は遂行してのけてナンボ」
という考え方は、組織人としては一応筋が通ったものです。
その陰に「家族のためそうしなければならない」「他に居場所がない」などといった
事情のようなものはまだ見えませんが、少なくとも自分たちの実力を証明し続けることが
他の多くのことよりも大切であるようには見えますね。
しかし結果を見れば、ハルオミは連れ戻したもののコマンドラモンは取り戻せず、
余裕ぶっこいてたら仲間の助け無しではタダじゃ済まなかったろう事態に陥ってます。
遺憾ながら、豪語に実績がいささか追いついていないと言わざるを得ません。
助けてくれたのが「命令がなきゃ放っておいた」と嘯いたグラニットなのは皮肉かも。
そろそろ焦りが見えてくる頃かもしれませんね。
「次はない」って言われちゃってるし。
・ホタルコ組
マコト組とは思ってたより早い再会となりました。
ちょっとホタルコが気まずそうです。十歳児相手にいくらなんでも言いすぎたかもとか、
後になって色々考えたのかもしれません。感情にも走っちゃってましたし。
あのアンチパシーがティロモンの能力を高めた可能性もあるのですが。
そのティロモン、相変わらず海だろうと空中だろうとお構いなしでした。
というか空中で水中ばりに動けるのはだいぶズルいと思います。
・グラニット組
チームセブンでは今回最も活躍したかもしれない方々。
ダミー逃走車の前進を阻止し、それから蜻蛉返りしてランフォモンをガードと
その援護防御の鬼ぶりを遺憾なく発揮していたと思います。
特にアルマリザモンの複合技を弾いたルドモンについては、盾役の面目躍如といえます。
成長期なのにアレを跳ね返すとはすごい。生まれの所以が手伝ってるのでしょうか。
・セラフィ
「上官」としてチームセブンに檄を飛ばしていました。
ハルオミに告げた「地獄」については、彼自身も経験があるのかもしれません。
もっとも、そのハルオミからは「ここよりマシ」と言われたも同然だったりしますが。
★名(迷)セリフ
「もう……やりたくない…… オレは……イヤだ……!」(コマンドラモン)
本編冒頭、ハルオミの回想より。
デジモンにとって人間は生みの親も同然なところがあるし、e-パルスを吸い尽くしはしても
その命まで奪うような手合いは出てきませんでした。
彼のような性格なら、人殺しは物凄いストレスだったのかもしれません。
「鍋か…… オレはこのまま閻魔様に会うことになるのか……?
薄情な3人組が、鍋を食べさせてくれなかったせいで……」(ハルオミ)
行き倒れをスルーしようとしたトモロウとレーナに(マコトは態度保留中でした)。
この後人数分の鍋をペロッと平らげてしまい、レーナを絶句させています。
少なくともメチャクチャ腹が減ってたのは事実みたいですね。
「一宿一飯のゾンビだってな!」(ゲッコーモン)
「恩義な。それを言うなら」(トモロウ)
ハルオミとコマンドラモンを捕まえて。それまだ誤用してたのね……
同じ脚本つながりでもあるネタですな。
「こんな時間、無かったな……」(ハルオミ)
コマンドラモンと一緒に釣りをしながら。
サラッと言ってますが、彼らの生活が今までいかに張り詰めていたかを示してます。
「何言ってんだ! オレたちは一心同体だろ!
ハルオミ! 二度とそんなこと言うなっ!」(コマンドラモン)
せめてお前だけでも、と言いかけたハルオミに。
彼はハルオミがいたから生まれたし、ハルオミがいてくれたからこそ
今までやってこられたでしょうから、それを言われるのが一番辛いでしょうね。
「デジモンをデリートしない。それがオレたちの掟だ」(トモロウ)
なぜクリーナーやってるのに金がないんだ、と言われて。
グローイングドーンの掟は、彼自身のものとして根を下ろしつつあるみたいですね。
これを聞いたハルオミは、コマンドラモンにここで暮らすよう言いかけるのですが……
「ハハハハ! こいつは傑作だ」(ハルオミ)
この手を汚してきた、という告白に「洗ってもダメか?」と訊いてきたゲッコーモンに。
その純真さが羨ましいよ。言葉の裏に、そんな皮肉抜きの意図が見えた気がしました。
「あいつ、本当に信用できると思うか……? なんか怪しいっていうか……」(トモロウ)
ハルオミのことを気にしてるのか、と訊いてきたゲッコーモンに。
そもそも彼はタクティクスに対する反感がひときわ根強いし、何か企んでるのでは……
と疑っても仕方ないところではあるかもしれません。
「バカかてめえ。感情のない人間なんているわけねェだろ。
コントロールするんだよ。感情に流されるのはスマートじゃない。馬鹿のやることだ。
天馬トモロウ……てめえみてえな」(ライト)
まだトモロウをナメてるとしか思えないセリフ。
加えて前回以上に敵愾心がダダ漏れです。内心相当にムカついてるのでしょう。
そうなるに至る原因を作ったのはよりによって彼自身だったりするんですが。
「……これで、オレは独りだ」
「コマンドラモンさえいなくなりゃ、俺はサポ主じゃなくなる。
あいつと一緒にヤバい仕事をさせられることもねえ。俺は自由だ!
自由になれたんだ!」(ハルオミ)
コマンドラモンを盾にしたのか、とトモロウに詰められて。
視聴者的にはもちろん予想できた展開のひとつですが、ちゃんと直前に違和感が仕込まれてます。
相方であるコマンドラモンには秒で芝居だと見抜かれてたようですね。
内山さんの演技も若干ぎこちない感じになっていて、プロの仕事を感じますね。
「何なんだよ、あのe-パルスは……!」(ライト)
ニュートロンブレイドを躱すも、さらに膨れ上がるe-パルスを見て。
やはり、トモロウのe-パルスは普通じゃないようです。
直後、デスロールプレスとのコンボという荒技に圧倒されかけてしまいました。
どうも予想外のことをされるのには慣れてないみたいですね。
「危なかったね」(グラニット)
合流と同時に援護防御を果たして。皮肉なのかそうじゃないのかハッキリしないセリフですが、
ライトには絶妙に刺さったらしく声を荒げていました。感情のコントロール、ねぇ?
「何があっても、絶対に擬態を解除するなよ…… いいな……!」(ハルオミ)
ランフォモンからの攻撃を受ける直前、コマンドラモンにかけた言葉。
カットは二回あり、二度目でこのセリフが出ました。
コマンドラモンは戸惑いながらもこれを忠実に守り、タクティクスの目を逃れています。
昔からサポ主の言いつけをよく聞くタイプだったのでしょう。
「ズルいよ、ハルオミ……! また、会えるよね……」(コマンドラモン)
e-パルス切れで退化する直前の涙ながらなセリフ。会えますかね……
もし生きて再会できたのなら、今度こそは二人で自由を掴んで欲しいものです。
「ハルオミ……」(トモロウ)
自分の手を見つめながら。ハルオミを殴ったときの感触がまだ生々しく残っていたはずです。
疑ってしまった相手は、自分のことより相棒のことを考え、己を投げ出せる男でした。
オレにあいつほどのことができるのか? そんなことを考えていたのでしょうか。
単純に、もしまた会えたら謝りたいと思っているのかもしれません。
本人は「お前のおかげみたいなもんだ、気にするな」って言いそうですが。
「ここ以上の地獄があるかよ……」(ハルオミ)
どこに連れて行かれるのかという問いに「地獄、と言ったら?」と返されて。
彼にとって、タクティクスという場所はもうなんの価値もないのでしょう。
創設に関わっているセラフィに対しては、ある種最大級の皮肉と言えるかも。
「トモロウたちとなら、人生をやり直せる…… 悪夢に苦しめられることもない……
お前は、自由だ……」(ハルオミ)
ラストシーン。芝居してたときのセリフと対になってますね。
コマンドラモンは殺しのストレスで、悪夢を見てしまうこともあったみたいです。
相棒がどれほど苦しんでいたかは、苦楽を共にしたハルオミにしかわからないでしょう。
これ以上、地獄に付き合うことはない。彼の顔は、やり遂げた男の顔でした。
★次回予告
セラフィの「オークション」なるセリフにさっそく答え合わせが来るみたいです。
10話に登場したイズミなる人物も再登場するかもしれませんね。
檻に入っている少女の側にいるのは、ティンカーモンでしょうか?
まさかデジモンだけでなく、そのサポ主まで売買されている……!?