人狼
脚本:森地夏美 演出:池田洋子
作画監督:酒井夏海/大山康彦/GU_BIN/QIAN_JIN_YI
総作画監督:石橋大輔/金久保典江
★あらすじ
一夜町(ひとよまち)にやってきた宙たち。
そこは瑠璃の親戚が棲む街であり「人狼」が出るという恐ろしい噂がありました。
事実、雨の日になると何人もの人が襲われていたのです。
犠牲者は正体不明の毒に侵され、床に臥せってしまっていました。
「人狼」を鎮めるには、生贄を捧げるしかないといいます。
しかもその生贄は、代々月夜野家から出されていました。月夜野家──
そう、瑠璃こそがその末裔なのです。
閉鎖的な村の様子と黴の生えた因習に怒りを募らせた瑠璃は、危険を承知で生贄となり
指定の場所へ運ばれます。もちろんアンゴラモンや宙たちも一緒に。
果たして、怪物は姿を現しましたが──その正体はなんとマンティコアモンでした。
天使と共にいるはずのこの魔獣がなぜここにいるのか。確かなのは戦うしかないことだけ。
しかし、素早い動きで毒を使うマンティコアモンに苦戦を強いられる一同。
瑠璃は恐怖を捩じ伏せて相対します。彼女にとって、デジモンは恐怖の対象ではないからです。
なぜならば、パートナーと共に今までずっと切り抜けてきたのだから。
ならば、今度も必ず!
瑠璃の勇気を受け、彼女を守ろうとジンバーアンゴラモンは完全体・ラモールモンへ進化。
マンティコアモンをパワーで圧倒しますが、そこにダルクモンが現れました。
手違いで野に放たれてしまったマンティコアモンは「人狼」についてのデータを食ってしまい、
自分が人狼だと思い込んでしまっていたのです。とんだ人騒がせでした。
こうして事件の元凶は連れ戻され、皆の毒もテティスモンが解毒剤を作ることで完治。
一行は村を去ることになります。しかし、人狼の伝説そのものは謎のまま残りました。
去り際の車内で、瑠璃は確かに何者かの咆哮を耳にしていたのです。
何より、彼女だけが感じたあの生々しいビジョンは何だったのでしょう。
それは、瑠璃が人狼と恋に落ちたという月夜野の娘の血を引いている証なのでしょうか──
★全体印象
35話です。
今回のテーマはホラー・妖怪ものでもよくある「山村に伝わる古い因習」です。
根拠のないしきたりへの盲目を批判する一方、伝説そのものは否定せずに締めるという
基本を抑えた流れになっていました。
今回でようやくアンゴラモンの完全体・ラモールモンが登場。
メインキャラの完全体が出揃うのは無印や:などもっと遅い作品もあるのですが、
あちらはメインキャラの人数自体が多いのである程度分散させていた事情があります。
メインが三組しかいないのに出揃うのがこれだけ遅く、かつ分散している例は他にありません。
この調子だと究極体は出ないか、最後にちょっと出るぐらいかもしれませんね……
キービジュアル第二弾に記されている通り、ここから展開が徐々に激しくなってゆくとしても
出たとして45話以降とかそんな感じになるかも。
:で完全体を集中して出しすぎた反省、にしては極端な話です。
脚本は森地夏美さん。クレジットを見た瞬間に何か納得してしまいました。
すっ飛ばした導入や雰囲気重視の展開、ふわっとした決着など過去との共通点が多いです。
演出がこれに拍車をかけていた気がします。
★キャラなど個別印象
・瑠璃
なんかヤバい因習のある村と関わりの深い血縁だということがサラッと明かされました。
特に生贄については、本人も両親から聞かされていなかったようです。
たぶん親御さんがた、そんな一夜町が嫌で都会に出て行ったのでしょう。
その肝心のご両親はいまだ登場してないのですが、瑠璃が一夜町に行くと聞いても
止めたりついて来たりはしてないところを見ると行くこと自体に文句はなかったり、
伝説についてもまったく信じていないと捉えるべきかもしれません。
ただし忙しそうにも見えるので、把握が遅れてる可能性もあるんですがすべては推測。
さて、今回アンゴラモンと共にとうとう完全体進化を実現させました。
因習とは関係なく死の危険に直面した彼女ですが、相手が捉え所のない怪異ではなく
デジモンであるのならば、たとえ今がどれほど窮地であろうとも恐れるには値しないと
恐怖を捩じ伏せて相対しました。
その少し前、生贄を申し出た際はアンゴラモンに無謀さを指摘されていた彼女。
それはきっと、正体のわからないものにモヤモヤをぶつけるようなやり方を懸念されてのもの。
しかしそれがデジモンであったとなれば、話はまるで違ってくるわけです。
正体のわかっているものを恐れる必要など、微塵もないのですから。
宙や清司郎たちのようにさらなる力を掴むときは今であると、二人の心が一致したのでしょう。
そういえば、アシュラモンが瑠璃から得た感情も「勇気」でしたっけね。
・アンゴラモン → ジンバーアンゴラモン
ポエムはちゃんとありますが、今回は割に無口だった気がします。
村のピリピリした雰囲気や、瑠璃自身に気を遣って空気を読んでいたのかもしれません。
もっとも、今回はガンマモンすらかなり自重してた感じなのですが。
戦闘ではマンティコアモンへ果敢に挑んでいますが、成熟期のままではまったく相手になっていません。
テティスモンも翻弄されたほどですので、こと近接戦にかけては相手が強すぎたということでしょう。
・ラモールモン
ジンバーアンゴラモンが進化を遂げた獣型完全体。意外なようですが、ただの獣型です。
キービジュアルからもわかる通り、これまでよりもかなり強面な顔つき。
これに合わせ、中井さんの演技も低く唸るようなものに変わっています。
体格も相当の巨大化を遂げていて、マンティコアモンとがっぷり四つに組み合えるほど。
一人称は「オレ」となり、野性が前面へ出る性格になりました。
相手が倒れてもひたすら攻撃を続けるあたり、歯止めがかからないところもあるようです。
このあたりは設定通り、かもしれません。
しかしながら「瑠璃を守る」という一点を行動ラインに置いているっぽいためか
理性と呼べるものも残っています。ダルクモンが止めた際も素直に従っていました。
その後背を向けて縮こまっていた姿は、まるで恥じ入るかのよう。
設定によれば、ラモールモンには「自身の衝動を恥じて嫌う個体もいる」とのこと。
彼こそがまさにその個体というやつかもしれません。
瑠璃のパートナーであろうとする想いがそうさせるのでしょうか。
技についてはまだ「禍災爪」しか放っておらず、腰の刀は抜いてすらいません。
つまり、全力の一撃はまだ垣間見せてもいないということです。
本領発揮はまだまだこれからというところでしょう。
・宙組
ほぼ脇に徹しており、目立った活躍はありません。
戦闘ではベテルガンマモンで参加してますが、毒で早々にダウンしてしまいました。
テティスモンがいなかったら地域ともどもヤバかったでしょう。
・清司郎組
こちらも脇ですが、清司郎がめっちゃ喋るので目立ってはいます。
また、あらゆる毒を解析して解毒できるテティスモンの存在が貢献としてデカかったです。
自身も毒にやられながらの行動になったので、見せ場は譲る形でしたが。
・サチ婆
地元で「人狼」の伝説に一番詳しいとされる目つきの鋭い老婆。
物言いからみて、瑠璃の祖母・和子とは見知った間柄だった人物と思われます。
月夜野家の娘と愛し合いながらもこれを失い、怒りと嘆きに苛まれ続けているという
人狼の怒りを鎮めるため100年に一度、同じ家の娘を生贄に捧げるという
古い因習を信じており、瑠璃にそれを期待していました。
ここまで書いただけでは古い言い伝えを盲信しているだけの人なのですけれど、
その行動や言動には何か妙な迫力というか確信が感じられます。
一夜町を去る瑠璃たちを見つめる視線にも、どこか強い意志を感じました。
以前に「何かを見た」ことがあるのでしょうか……
中の人は江守浩子さん。「サイスル」ではハックモンを演じていた方です。
1980年代は「蒼き流星SPTレイズナー」のアンナや「聖闘士星矢」の貴鬼といった
ヒロインや少年役を主につとめておられたベテラン声優さんですが、
当時から「ゲゲゲの鬼太郎(3期)」の砂かけばばあなど老婆役も演じていました。
こう言うとなんですが、同じお婆さん役でも当時より貫禄がありますね。
・さくら
瑠璃の親戚の一人。外から嫁いできたので月夜野家の血縁ではないようです。
そのためか他の者とは雰囲気が違い、若干浮いていました。
瑠璃とは久し振りに会ったようですが、良好な間柄のようです。
導入に関わった人物ではありますが、事件そのものには深く関わりません。
総じて案内役の域を出ない役柄です。
中の人である水沢史絵さんは「ハートキャッチプリキュア!」のキュアマリン=
来海えりか役で知られている方です。昨年も劇場版に出てましたね。
演技的にはそのえりかぐらいのトーンでやってると割にわかりやすいのですが、
この人物のようにフツーの役をやっていると気づきにくいかもしれません。
・村の皆さん
一夜町に住んでいる方々。
人狼の伝説については懐疑的ですが、実際に被害が出まくっているため困惑していました。
不安に駆られてはいるものの、年端もゆかぬ少女を生贄にする件には懐疑的な声も。
全体としてはまだ冷静でしたが、放っておいたらどうなっていたかはわかりません。
・マンティコアモン
完全体の魔獣型デジモン。
設定ではその凶暴性以上にウィルス系、つまり主に天使系デジモンの敵対種族へ
執拗な攻撃を加えてコアを食うことに特化したような存在であり、
そこを買われて使役されているというなかなかの難物みたいです。
これが何らかの手違いで野に放たれてしまい、人狼の伝説が記された記録など
なんらかのデータを取り込んでしまったことでその行動をトレースするようになったそうです。
その割に人が襲われても毒の影響を受けるだけで直接殺されてるわけじゃないっぽいのは、
コイツが本来は人を食うタイプのデジモンじゃないからかもしれません。
そうでなかったら、被害はもっと広がっていたでしょう。
テティスモンの眩惑的な動きにも対応するその戦闘力もさることながら、厄介なのは毒。
これに侵された者は即死こそしないものの、動くことさえままならなくなってしまいます。
劇中ではベテルガンマモンが早々に受けてダウンしてしまい、テティスモンが解毒するまで
ほとんど動くことができていませんでした。
かくて凶暴性とその毒で一同を追い詰めますが、恐怖を捩じ伏せた瑠璃と
これに応えたアンゴラモンの完全体進化によりラモールモンが現れて形勢は逆転。
毒攻撃を放つ尻尾は機先を制する形で押さえ込まれてしまい、
マウントポジションを取られて「禍災爪」の連打を受ける窮地へ至りました。
ダルクモンが割って入っていなかったら、そのまま死ぬまで削られ続けたかもしれません。
その後はダルクモンに「人狼」の情報を除去され、共に去ってゆきました。
戦いのあとはずっと神妙にしていましたが、弱っていたというだけではなく
この場でこれ以上暴れても意味はないと悟ったのかもしれません。
凶暴とはいっても、頭が悪いわけではないのでしょう。マトモな状態であれば。
たぶん。
・ダルクモン
突然現れ、瑠璃とほぼ同時にラモールモンを静止した天使型デジモン。
「デジモンフロンティア 古代デジモン復活!」でキービジュアルを飾ったデジモンですが、
あれは実はムルムクスモンが化けた偽物だったので本物がマトモに喋るのは初めてです。
そういう意味では、映像作品でちゃんと扱ってもらえたのは今回が初かもしれません。
戦いを止めたあとはマンティコアモンに処置を施し、連れ戻す役回りをこなしました。
ある意味デウス・エクス・マキナです。機械ではないけど。
とはいえ元を正せばどう考えてもこのデジモンの不手際が原因なのですが、
それについてはサラッと謝罪するだけで済ませていました。ある意味天使らしいけど。
中の人は斎賀みつきさん。
「ゾイド」のレイヴン、「ロックマンエグゼ」の伊集院炎山、「SDガンダムフォース」
の翼の騎士ゼロ、「グレンラガン」のロシウ、「プリパラ」の紫京院ひびきと
その声質から中性的ないし美形少年/青年の役柄が圧倒的に多い方です。
デジモンには「クロスウォーズ」74話ゲストであるヒロヤで初出演していますが
今回久しぶりの出演となりました。
ぜひレナモンあたりを演ってほしかったんですが、意外なところでの出演です。
・宙のデジモン調査ファイル
そろそろ寮長をオチに使う以外のまとめ方が見たいかもしれません。
★名(迷)セリフ
「ヒガッチうるさい!」(瑠璃)
100年前も「人狼」に生贄が捧げられたと聞いて、恐怖の叫びを上げた清司郎に。
ミもフタもない言い回しですがちょっと可笑しい。あと実際にうるさい。
「生贄よ!? クマやイノシシに人間差し出してどーすんのよ!」(瑠璃)
言い伝えについてあれこれ見解を述べる宙たちに。
人間なめんなというか、これも瑠璃らしい物言いです。
「なーんか腹立つのよね。
祟りだの生贄だの、迷信に振り回されてスゴスゴ帰るんじゃ、なんだか負けるみたい」(瑠璃)
瑠璃三連発。負けず嫌いな性格がよく出ています。
しかしこの直後彼女だけにしか見えない、しかし確かなビジョンが眼前に広がります。
まるでかつての月夜野の姫の記憶が、末裔である瑠璃にそのまま伝わるかのように……
「怒ってないさ。でもぼくは、勇気と無謀は違うものだと思うよ」(アンゴラモン)
ちょっと釘を刺すような一言。
確かに瑠璃の行動は無謀とも取れるものですが、そこにはあのビジョンが幻かどうかという
彼女なりの見極めを兼ねてのこと。アンゴラモンの反応は織り込み済みだったはずです。
いざという時パートナーに守ってもらえるという信頼もあるでしょう。
「怖がってるとか思わないでよ!
あんたはデジモン! 祟りなんかじゃないし、人狼なんていない!
迷信に振り回されたりはしない…伝説になりすまして、人を襲うあんたなんかに
あたしも、ジンバーアンゴラモンも、負けない!」
「…そうだ…負けない…!」
「どんなピンチもあたしたちは…!」
「ああ…打ち破ってみせるっ!」
(瑠璃とジンバーアンゴラモン)
圧倒的パワーを見せるマンティコアモンに。
相手が人狼などという迷信めいたものではなくデジモンであるなら、倒せないはずはない。
彼女たちは他ならぬそのデジモンと人が共に歩み、危機を乗り越えてきた証。
伝説などではない、今確かにここにある絆なのですから。
紆余曲折を経て重ねられてきた信頼が、ついにここで鼻開きます。
「オレは…負けない…! 瑠璃、守る!」(ラモールモン)
マンティコアモンと組み合いながら。ご、語彙が喪失している…
「アンゴラモン! ありがとう…!」(瑠璃)
「…うん」(アンゴラモン)
ラモールモンの暴れっぷりは、瑠璃が思わず制止に入ろうとするほどでした。
たまたま、ダルクモンの制止がそこに重なった形です。
背を向けて成長期に戻ったラモールモンの様子は、上記した通りどこか恥入ったものでしたが
瑠璃の感謝の言葉はそんなアンゴラモンの気持ちを上塗るに充分だったようです。
「二度と同じことは起こさない。ダルクモンの名において」(ダルクモン)
去り際の一言。原型であるジャンヌ・ダルクっぽいセリフです。
マンティコアモンはそのあまりの凶暴さから乗り手の手に余ることもあるそうですから、
何かのキッカケで制御を離れてしまったことが今回の事件につながったのでしょう。
彼女にとっては痛恨のミスでしょうから、今度は名誉にかけて誓ったというわけですね。
「伝説も迷信も、空中楼閣。真実は深き藪の中……」(アンゴラモン)
今回のアンゴラポエム。
空中楼閣とは土台のない事柄、すなわち絵空事のことです。
しかしその絵空事がどこから来たのか、確かめる術はもうどこにもないのでしょう。
「あれは祟りじゃなかった。人狼なんていないのよ……」(瑠璃)
帰りの車の中で。
けれど彼女の目は確かに600年前の悲劇が映り、耳には人狼の嘆きの声が聞こえたのです。
ただ、きっと瑠璃はそのことを誰かに伝える気も、信じてもらう気もないのでしょう。
もし母か父が同じものを見聞きしていたとして、それを自分に伝え聞かせてはいないように。
★次回予告
どこかにお宝でも探しに行くんでしょうか?
宙たちの他にも何人かいますけど、彼らに巻き込まれる形なんですかね。
でもって、またしても登場デジモンの正体がわかりません。今度は何者だ!?