辻斬リ

脚本:山口宏 演出:角銅博之
作画監督:佐藤敏明/仁井宏隆/武内昭/川口弘明
総作画監督:石橋大輔/金久保典江

★あらすじ

 人間やデジモンを手当たり次第に襲う「辻斬り」が出現。
 集会の帰り、アンゴラモンはビルの上を彷徨うハヌモンに遭遇します。
 見咎めたのはまさに噂の辻斬りの如く、抜き身の刀を携えているためでした。

 何かに取り憑かれたようなハヌモンから、刀を手放させようとするアンゴラモン。
 ところが当のハヌモンは刀に吸収されるように消滅し、アンゴラモン自身は
 刀から手を離すことができなくなってしまいます。

 そして彼の頭に響き続ける「斬れ」の言葉と殺意の衝動。
 アンゴラモンはこれに必死で抗い続けますが、次第に自分を保てなくなり
 レッパモンを襲いかけるまでに陥ってしまいました。

 レッパモンの証言を受け、アンゴラモンの本格的捜索を始める宙たち。
 瑠璃は以前のやり取りから彼の居場所を割り出し急行するのですが、
 アンゴラモンはもはや衝動を抑えきれない状態でした。
 間一髪、カウスガンマモンが割って入ることでその場の危機は免れます。

 しかし件の「刀」はテスラジェリーモンやカウスガンマモンからデータを奪い、
 アンゴラモンから離れてその本体を露とします。
 人間界に来た際、刀と混じり合ってしまったムシャモンがその実体でした。

 ムシャモンの凶行と、自分に瑠璃を襲わせたことに怒るアンゴラモン。
 進化して戦いを挑みますが、ムシャモンの剣技の前に苦戦を強いられます。
 そこにムシャモンと因縁があるらしいズバモンが割って入り、自ら剣となって
 ジンバーアンゴラモンに協力。見事相手の刀を折ってのけます。

 刀を失って意気消沈し、ブラックテイルモンUverに連れられてゆくムシャモン。
 同時に北斗からの返信が宙へ託されるのですが、何もわからないままでした。
 果たして、北斗にまつわる謎はいつ明かされるのでしょうか──
 
 
 
 
★全体印象
 
 31話です。今回のテーマは「妖刀」。
 デジモンを操って辻斬りさせるという恐ろしい刀にアンゴラモンが取り込まれ、
 ついには最愛のパートナーに手をかけそうになってしまうという内容ですが
 それ以上でも以下でもない(彩羽)という印象です。

 何というかこう、刀が出てくるしアンゴラモンと瑠璃の信頼の篤さを描きつつ
 完全体進化を絡めてくるかと思ったんですが全然違ってましたね。
 その肩透かし感が主観に入っていることは差し引かねばなりませんが。

 代わりにというべきか、ズバモンがサプライズ気味に登場。
 ジンバーアンゴラモンの武器となりムシャモンに打ち勝つ流れを作りました。
 放送日である6月26日は初代「デジタルモンスター」が発売した記念日なので、
 そこに合わせたのでしょう。

 …だとするとこの話、本来は35話にあたるエピソードだったのかもしれません。
 それが不正アクセスによる影響で入れ替えなどの調整が加わった結果、
 話数が前倒しされて31話に配置されることになったと考えることができます。
 もちろん放送が遅れた結果、たまたまうまい具合にハマった可能性もあるのですが。

 いずれにせよ、視聴者に見えないところでスタッフの暗闘があるのは確実。
 不正アクセスの下手人には憤慨を新たにせざるを得ません。
 いったいどこのどいつなんでしょうね。

 脚本は山口宏さん。またメインゲストの頭のネジが吹っ飛んでいます。
 作画やアクションの動きについては、本作にしちゃいささか低調だったかも。
 
 
 
 
★キャラなど個別印象
 
 
・宙組

 今回もどっちかというと脇役。
 戦闘においても瑠璃をピンチから救った以外はこれというものが無いのですが、
 27話で北斗に送った手紙の返信があったことは特筆点です。

 しかし結局はぐらかしてるのか本当にわからんのか曖昧すぎる返答しかもらえずで、
 布石を置いた意味がまるで無い流れになってしまっていました。
 もはや「視聴者に北斗の存在を忘れさせないための重石」の意味しかない感じ。
 そろそろ1発か2発ビンタかましていいんじゃないかと思えてきましたよあのクソ親父。

 大体からして宙もズレてるというか、「手に負えないデジモンが出たらどうしよう」
 などと訊くより他にいくらでも質問事項はあるでしょうに……
 どうせ教えてくれない気がするから、答えてもらえそうな内容を選んだのでしょうか。
 それすら答えてもらえてないわけですが……

 この調子だと、3クール目も何も進展が得られないかもしれないなぁ……
 どっかの時点で急に動き出しそうな予感だけはありますが。
 
 
 
・清司郎組

 こちらも脇担当で、戦闘はしてますが途中から見てるだけになります。
 寮長によれば、ジェリーモンは出かけたら二、三日戻ってこないこともザラなんだそうで。
 さもありなん、という印象です。
 
 
 
・瑠璃

 起床や帰宅のたびにアンゴラモンが帰っていないか気にしている描写があります。
 彼女にとってはもう、アンゴラモンがいない生活は考えられないのかもしれません。
 仲良し度については宙とガンマモンをも凌いでる印象すらあるし。
 セリフの端々にも、パートナーへの信頼が顕著に見て取れます。

 そんなアンゴラモンの行き先を突き止めたのも彼女でしたが、よりによって
 理性を失ったアンゴラモンの犠牲者第一号になりかける危機へ陥りました。
 アンゴラモンはガンマモンと宙に感謝したことでしょう。
 
 
 
・アンゴラモン → ジンバーアンゴラモン

 26話に続いて半ば以上主役待遇です。
 彼、判断力が高くて割に自分で動くからパートナー抜きで行動するのはザラだし、
 こういう話に持ってゆきやすいのでしょう。
 人間キャラの付随物みたいな扱いじゃないのはとても良いことだと思います。

 しかし何かとパートナーを襲うハメになるというか何というか……
 23話の時も今回もかなり抵抗していたし、その理性の高さが良くわかるのですけど
 だからこそ自制を失った際のギャップがひときわ大きいのもまた事実なんですよね。
 難儀なことに。

 ただガンマモンには悪いですが、彼がデータを吸われて戦闘不能に陥ったおかげで
 刀が離れてムシャモンに戻ってくれたのは幸いだったと言うべきでしょう。
 おかげでアンゴラモンは自分を取り戻し、刀に吸収されずに済んだわけですから。
 文字通りのケガの功名です。

 その後、彼にしては強い怒りを露としムシャモンに挑みますが苦戦しています。
 相手が強いのもありますが、徐々に生命力を吸われていた関係で本調子ではなく
 同格の成熟期相手であってもすでに万全とはいかなかったのかもしれません。
 それでも戦わねばならない理由が彼にはあったわけですが。
 ズバモンの協力がなければ危なかったでしょう。

 ところで、成熟期の姿だと剣が映えますね。
 剣客モノにハマっていた事といい、ある意味この回も完全体進化の布石に見えます。
 本当のところは分かりませんが。
 
 
 
・レッパモン

 11話に登場した個体が再登場。今も例の竹林を塒にしているようですね。
 これまでも集会などに顔を見せているカットがありましたが、セリフ有は久々です。
 どうやら本体と尻尾はそれなりにうまくやっているようですね。何より。
 尻尾の方は相変わらず喧嘩っ早いですが。

 中盤、刀に操られかけたアンゴラモンに襲われ一太刀だけやり取りしています。
 この際尻尾の一部が欠けてしまい、妖刀のヤバさを強調していました。
 その後もアンゴラモン捜索に参加していますが、後半のバトルには参加していません。

 まあ刀の特性を考えると、居合わせなくて正解だったわけですが……
 あとで顛末を聞き、安堵したことでしょう。
 
 
 
・ムシャモン

 魔人型の成熟期デジモン。
 過去シリーズでは京都に現れてシュリモンに送還されたり、新宿に現れて
 ガルゴモンに退治されたり、一国一城の主として何とガイオウモンを従えていたり
 いろんな遍歴を辿っている存在です。

 そんな中では、ある意味最もモチーフに忠実な造形だったかもしれません。
 人間界に来る際に刀と同化したのも「刀は武士の魂」をある意味地で行ってます。
 本人的にはもちろん困った状態なわけですが、他のデジモンを操って辻斬りさせ
 自らの本体を再構成する糧としたその悪辣な手段は見逃せません。

 しかも敗れた際に人間たちは戻りましたが、吸収したデジモンは戻っていないのです。
 恐らくですがムシャモンとしての肉体を取り戻す際、カウスガンマモンのそれと共に
 彼らのデータも全て使ってしまったのでしょう。そうとしか見えません。

 本来ならぶった斬られても文句は言えない立場だったのですが、その代わりに
 ジンバーアンゴラモンとズバモンに刀を折られた上刀身ごと失う憂き目に遭います。
 上で「刀は武士の魂」と書きましたが、愛刀を失った彼はまさに死んだも同然。

 しかも刀を失くしたまま、生き恥を晒し続けなければならないのです。
 それは彼にとって、死ぬよりつらいことかもしれません。
 戦いの中で死ぬのならある意味本懐でしょうが、その本懐を奪われたのですから。
 そういう意味で「斬られなかった」ことは彼への最大の罰だったのかもしれません。

 中の人は江原正士さん。
 80年代手前にデビューし、その存在感ある渋いお声で活躍中の大ベテランです。
 お茶目な役柄も得意としていますけど、今回はシリアス一辺倒でした。
 意外なようですが、今回がデジモン初参加となります。
 
 
 
・ズバモン

 成長期の武器型デジモン。カテゴリ通り、剣に変形することができます。剣星人かあんたは。
 しかしこの段階からすでに「使い方によっては世界の趨勢さえ左右する」との設定。
 それは大袈裟にしても、成長期としては破格の攻撃力を備えていると見ていいでしょう。
 武器となった自身を振るう者の力量にも左右されそうですが。

 どうやら顔のキズはムシャモンに付けられたものらしく、借りを返すため探し回ってましたが
 まさか刀と本体が混じってたとはさすがに思っておらず本格介入は後半も後半になってから。
 しかし剣となった際の切れ味は凄まじく、ただ一回の太刀合わせでムシャモンの愛刀である
 「白鳥丸」をへし折り刀身ごと消滅させるほどの威力を発揮しました。
 少なくとも成熟期レベルの武器では歯が立たないようですね。

 竹を断ち割ったように真っ直ぐな性格で、口調はなぜかべらんめえ調。
 ムシャモンをどこまでも追う執念深さはありますが、生命を取ることに拘りはありませんでした。
 また最も闘志を示していたジンバーアンゴラモンに自らを使わせるなど、必要と見れば
 気前よく自分の力を貸し与える割り切った側面も兼ね備えていました。

 中の人は津田美波さん。デジモン初参加です。
 「アイカツスターズ!」の白鳥ひめのような柔らかくも強さと余裕に溢れた少女役から
 「シンカリオンZ」の新多シンのような少年役まで、かなり幅広い芸風を誇ります。
 今回は上記のどちらとも違う役柄で、またひとつ印象を新たにすることができました。
 
 
 
・ゴブリモン / ハヌモン

 ムシャモン自身でもあった妖刀の犠牲者。
 操られて多くの凶行を働かされたあげく、ゴブリモンはハヌモンに、ハヌモンは
 ゴブリモンに刀を押し付けた時点で消滅、刀に吸収されてしまいました。

 しかも上記の通り、ムシャモン自身の復活に使われてしまったのか元に戻ってもいません。
 今回における最大の被害者枠です。しかもこの二体は目に見える範囲でしかない。
 特にハヌモンは腕に覚えこそありそうなものの、特に何か悪事をしてた様子もないので
 よけいに気の毒といえます。

 一歩間違えば、アンゴラモンも彼らのような末路を辿っていた可能性があるわけです。
 あの時点でムシャモンが目的を達成したことは、彼にとって僥倖でした。
 
 
 
 
★名(迷)セリフ
 
 
「蒼き月明かりを纏いし我が刃! 裁きの一太刀を受けるがよい!」(アンゴラモン)
 
 小説「燃えよ剣客」の一説をマネして。結構ノリがいいんですよね彼。
 ここでは楽しげに読み上げており、後半とのコントラストを際立たせています。

 
「なぁ、アンゴラモン。よかったら乗せていってくれないか?」(レッパモン本体)
 
 集会の解散タイミングで。
 なにげない一言ですが、このあと尻尾が言ってた「瑠璃によろしくな」も含めて
 緩くとも交友関係が続いているのを感じられ、なんだか妙に嬉しくなります。
 
 
「お願いします! ジェリーモン様~!」(瑠璃)
 
 集会に出入りしているデジモンから話を聞けるかもしれない、とジェリーモンから聞いて。
 普段わりとジェリーモンへの当たりがキツめな彼女にしては珍しい態度です。
 それだけアンゴラモンが心配ってことですけど。
 
 
「アンゴラモンは絶対にそんなこと…しない…!」(瑠璃)
 
 辻斬りデジモンはアンゴラモンだった、とレッパモンから聞いて。
 根拠はありませんが、誰よりもアンゴラモンのことを知っている彼女だからこそ
 直感で「そんなはずはない」と答えを出したわけですね。

 そしてそれは半分当たってましたが、半分ハズレでした。
 普段のアンゴラモンは彼女の言う通り、確かにそんなことは絶対しないはずですが
 そもそも普通の状態ではなかったのですから。
 
 
「お前は多くの人を斬り、多くのデジモンを糧とした……
 …そしてこのぼくに、瑠璃まで襲わせようとした!
 絶対に許さない…!」(アンゴラモン)

 
 本体をあっという間に復活させたガンマモンを完全に吸収しようと迫るムシャモンに。
 物静かな彼にしては珍しく、激しい怒りを垣間見せた瞬間です。
 ムシャモンの敗因のひとつは、アンゴラモンを本気で怒らせたことでしょう。
 
 
「瑠璃…何度だって言うよ。ぼくは、君を必ず守る!」(アンゴラモン)
 
 新たな誓い。3話を同じセリフをもう一度繰り返しています。
 操られて瑠璃を襲いかけたことへの自戒をも込めた、より強い決意ですね。
 
 
「久しぶりだなぁ、ムシャモンの旦那。この傷、忘れたとは言わせねえぜ」(ズバモン)
 
 ジンバーアンゴラモンとムシャモンの戦いに割って入って。なかなか不敵な物言いです。
 しばらく前から様子を見ていたようですが、介入してきたのは刀がムシャモンであるという
 紛れもない確証を得たからでしょうか。いずれにせよ、悪くないタイミングです。
 
 
「蒼き月明かりを纏いし、我が刃…… 裁きの一太刀を、受けるがよい!」(ジンバーアンゴラモン)
 
 三日月をバックに、剣となったズバモンを構えて。
 前半と同じセリフですが、重みが全く違います。後に行くほど盛り上がるのもポイント。
 ここらへんの中井さんの演じ分け、さすがはプロですね。痺れます。
 
 
「すまん息子よ! 今のとこはよく判らん! 頑張れ!」(北斗)
 
 宙の手紙への返信。27話で立てたフラグが微塵にへし折られた瞬間です。
 今から一緒に、これから一緒に、殴りに行こうか???(なお居場所は未だわからない模様)
 
 
「明日は明日の風が吹く。
 風が吹かねば、ケセラセラ。凪もまた良し」(ジンバーアンゴラモン)

 
 今回のアンゴラポエム。
 剣客ものに影響を受けているからか妙に時代がかった言い回しになっていますが、
 そこにスペイン語の「ケセラセラ(なるようになる)」が混じってることで印象が強まっています。
 
 
 
 
★次回予告

 どうやらガンマモンのニセ者が現れるようです。
 果たしてその正体は…と思ってたら、まさかの公式からネタバラシされてしまいました。
 少しでもデジモンに詳しい人なら一発でわかってしまうでしょう。

 あ、あの…どうしてそんなことをするのですか……???
 それともミスリードなの……????