ウメク蟲
脚本:森地夏美 演出:宍戸望
作画監督:Eugene_Ayson/澤木巳登里/大西陽一/鳥山冬美
総作画監督:石橋大輔/金久保典江
★あらすじ
夜になると突如デジモンが凶暴化し、暴れ出す事件が発生。
クロックモンが対処に奔走していましたが、彼が連絡を取ろうとした時にはすでに
ジェリーモンにも現象が発生し、清司郎が這々の体で逃げ出す事態になっていました。
原因不明のままやがてアンゴラモン、そしてガンマモンも凶暴化してしまいます。
が、クロックモンの発見でネットワーク端末やアンテナから赤い粒子が出ており
その正体がモルフォモンの鱗粉であることがわかりました。
どうやら、モルフォモンが何らかの危険に巻き込まれている影響らしいのです。
さらなる調査で、鱗粉は古い通信衛星を介してばら撒かれていることが判明。
宙がなんとかガンマモンだけは元に戻したので、清司郎の頭脳を頼りに
衛星の座標めがけウェズンガンマモンで砲撃する作戦が決行されます。
凶暴化したジェリーモンやアンゴラモンの襲撃があったものの、作戦は成功。
人間の研究者に捕まっていたモルフォモンも救出され、なんとか事件は落ち着きました。
助けを求めるモルフォモンの必死の願いが、攻撃性として顕れてしまったのです。
本人に悪意がなくとも、恐ろしい出来事に発展してしまうこともある。
デジモンという存在の影響の強さが、あらためて浮き彫りになった事件でした。
★全体印象
23話です。
本来ならこれが3月最後の放映分ですが、実際には4月最後の放映となりました。
とはいえ、2クール目最後の回として予定されていたことは変わりないはずです。
EDもこの回までは「だって今日まで恋煩い」の予定だったと仮定するのが妥当でしょう。
となれば差し替え作業が発生したはず。余計な手間ばかり増えてしまったものです。
さて予告は非常に怖かったのですが、フタを開けてみれば悪意は介在しておらず
(モルフォモンを捕まえていた研究者でさえ興味本位であり事態を把握してなかった)、
構図的にはむしろ前回に近いものがあります。
デジモンというより妖怪モノに近い形、と言い換えてもいいでしょう。
本作自体がそんな感じなんだけど。
ただガンマモン達は単純な凶暴化ではなくモルフォモンの本能に振り回されてる感じで、
虫みたいな挙動になってるのは単にその影響というか演出の類です。
必殺技を出すわけでも進化できるわけでもないので案外どうにかなる状態でした。
怖いのはあくまで挙動だけ。まあ、そうでないと人間じゃ太刀打ちできないんですが……
アンゴラモンに至ってはかなり抵抗してたし、それが幸いした部分は多々ありそうです。
クライマックスでは、ウェズンガンマモンの脅威的な砲撃能力が披露されました。
攻撃力では三形態中でも一番と考えて間違いなさそうです。
射撃までに時間がかかりすぎるあたりは成熟期の限界、ってところでしょうが……
脚本は森地夏美さん。なんかこの方のホンだと人間ゲストが雑に絡んできがちですね。
演出の宍戸望さんは単独としては本作初のクレジットになります。
どっちかといえば作画のキモい動きとざわざわした演出が見どころの主体でしょう。
★キャラなど個別印象
・宙
凶暴化したガンマモンに襲われるというショッキングな事態に見舞われてしまいますが、
感情的になりすぎることなく冷静に対処していました。
また何らかの強い刺激が鱗粉の影響を弱めると咄嗟に気付き、手元にあった
ありったけの辛味をぶち込んでガンマモンを正気に戻すという機転も見せています。
こんぐらい肝が据わってないと、ガンマモンの兄貴はやれないのかもしれませんね。
後半ではウェズンガンマモンの側に控え、座標タイミングに合わせて
砲撃を打ち込むための号令をかけるという重要な役割をこなしました。
彼でなくても号令を出すことはできるはずだし、なんならたとえ号令が無くとも
技を出すだけはできるでしょうがアンゴラモンたちはあの調子。
清司郎も計算だけで精一杯であり、しかも他の人が代われる作業ではありません。
何より、正式なパートナーである宙に号令を出させるのが最も確実なのでしょう。
号令無しや他の誰かの号令で放つより、パートナーの号令で放った方が
120%の威力が出ると推測したとしても、的外れではありますまい。
・ガンマモン → ベテルガンマモン → ウェズンガンマモン
ヒマ潰しに宙から渡されたタブレットを介して鱗粉の影響を受けてしまい、
アンゴラモンとほぼ同時に凶暴化してしまいました。この時すでにジェリーモンも
凶暴化してしまっていたので、いきなり大ピンチを迎えた形です。
さすがに初見殺しにすぎますな。普通わかりませんよこんなの。
が、上記の通り宙の機転によって後半早々にメインの中でただ一人復帰を果たし、
事件解決の切り札として最も大きな役割をこなしました。
彼が元に戻っていないままだったら間違いなく詰んでいたでしょう。
後半では、ウェズンガンマモンの最大技である「アルビオン」を初披露しています。
人工衛星を一撃で破壊する火力もさることながら、圧巻はその長距離射程。
通信衛星は高度およそ36000km付近と思われるので、それを狙撃できるとなれば
弾速も光速に近しいということ。見てから避けるのは不可能でしょう。
直撃した場合、成熟期クラスまでのデジモンでは堪えられないものと思われます。
しかし恐らく発射にはかなりの時間がかかり、その間は動きが取れないので
乱戦にはまったくもって不向きです。加えてこれだけのエネルギーとそれ相応の
反動を考慮すれば、撃てても一度に二発が限界と考えるべきです。
こういう技をバカスカ振り回せるのが完全体とか究極体なんでしょうね。
その他ベテルガンマモンとしての姿も披露してますが、清司郎の側から
凶化ジェリーモンを追い払った場面のみの登場です。
小柄さを生かした機動性や地上なら場所をあまり選ばない汎用性、
技の影響範囲が小さめで狭い場所でも戦えるあたりがこの形態の利点ですね。
・瑠璃
意外?にも物理的に立ち回りまくってた人。
彼女も「ピッタリ探し」の過程で大抵のことは経験がありそうですね。
凶化アンゴラモンに急場しのぎの得物で立ち向かうあたりには頼もしさすらあります。
その一方、アンゴラモンの様子を「苦しそうだった」と捉え、恐怖を越えて
パートナーのためにも絶対やられないよう自衛を徹底する姿勢を見せています。
今さらながら、彼女の胆力も宙に負けず劣らずですね。優しさとも言いますが。
最終的には、パートナーが元に戻ったことを誰よりも喜んでいました。
こういう子だから、アンゴラモンもずっと側にいたいと思うのでしょう。
・清司郎
真っ先にパートナーが凶暴化してしまった人。相変わらずの貧乏籤です。
前半はおかしくなったジェリーモン相手にビビりまくって宙のところに避難したり
頼りないところが目立ちますが、後半では衛星を撃ち落とすため
その座標計算を一手に引き受けるという、彼にしかできない仕事ぶりを見せつけてます。
ぼやきながらも不敵に笑ってるあたり、テンションが上がって仕方ないのでしょう。
彼こそ、追い詰められるほどに頭が冴え肝も据わってゆくタイプです。
宙たち三人の強さというものが、パートナー凶暴化によって浮き彫りにされた形ですね。
・アンゴラモン、ジェリーモン
モルフォモンの鱗粉によって凶暴化し、パートナーであるはずの瑠璃たちを襲ってしまいます。
ガンマモンとは異なり、事態を収拾するまで元に戻ることはありませんでした。
身を守る術に乏しい人間である宙たちにとって、どれほど恐ろしく心細い事態だったことか。
ただアンゴラモンのみ僅かながら理性を残しており、それが時折表に顕れていました。
この事実が、瑠璃に「一番苦しいのは自分を止められないアンゴラモンなんだ」と気付かせ
元に戻るまで絶対アンゴラモンに自分を傷つけさせない、という決意に導いたものと思われます。
必死の抵抗が役に立った、ってところでしょうか。
・クロックモン
18話で名前のみ出てきましたが、登場は13話以来です。
凶暴化したデジモンの動きを得意の「クロノブレーカー」で止め、回収して回っていました。
そのあとどうしてたのかは定かではありません。
1話では人間を襲っていた類なのですが、二度の戦いですっかり懲りているため
「人間といざこざを起こしたくないグループ」として活動しているみたいです。
もう二度と宙たちのような手合いを敵に回したくない、と表現した方が近いでしょうけど。
改心したというのとは少し違うため、ぶっきらぼうな物言いは相変わらず。
それでもアンテナから鱗粉が出ているのを見つけたり、後半では衛星狙撃作戦の間
瑠璃とともに凶化したアンゴラモンとジェリーモンを抑えるなど割に活躍しています。
いいやつとは言えない輩と成り行きで共闘する流れ、嫌いじゃありません。
・マミーモン
2話以来の登場。ほとんど2クールぶりです。
ガンマモンたちに起こった現象そのものに知見はありませんでしたが、凶暴化したデジモンが
例の鱗粉の影響を受けていることを突き止め、その鱗粉の状態から
モルフォモンがどういう状況にあるのかという推測にまで迫るキッカケを作ったので
出番こそ短いですが極めて重要な役割を担ったと言えます。
今回はデジモンに関する知識や施術の腕前を披露してくれましたが、前に話に出た
人間を対象にしての医療には踏み込んで語られてません。まだ勉強中ってところでしょうか。
・モルフォモン
昆虫型の成長期デジモン。TVアニメ初登場です。
言わずと知れた「デジモンアドベンチャー ラストエボリューション」における
メノア・ベルッチのパートナーデジモンであり、人造デジモンであるエオスモンと
その系列の原型でもある存在ですが、特殊なのはエオスモンの方であって
モルフォモン自体はべつだん特別なデジモンというほどじゃないと思います。
今回は不幸にも人間の研究者に捕まってしまい、調査の過程でよほど怖い思いをしたのか
助けを求めてネットワークを介し鱗粉をばら撒いた結果、その必死の思いが
攻撃性として作用してしまい、デジモンがこれを吸引するなりして取り込むと理性を失い
人間への攻撃本能のみが顕在化するようになってしまいました。要は凶暴化してしまうのです。
鱗粉が作用するとどのデジモンにもモルフォモンと同じ触覚が生え、四つん這いになって
まさに虫そのものの挙動を取るようになります。この際の動きは非常にキモいです。
最も強く出ている攻撃本能が無意識、つまりモルフォモン本来の気持ちと食い違う
プリミティブなものであるため、こういう原始的な状態になってしまうのかもしれません。
ただ確かに恐ろしくはあるものの、凶化状態での攻撃行動は比較的単純で
進化はおろか必殺技も使えないため、冷静に見れば普段より弱体化しているとも言えます。
逆に言えばだからこそ、宙たちにもなんとか対処できたのかもしれません。
なお五感などに強い刺激を与えると元に戻るのですが、状況を選ぶ対処法。
最終的には研究者のサーバから解放され、鱗粉の影響も止まりました。
この時真っ先に瑠璃に飛びついているので、基本的には人間が好きなのだろうと思います。
恐ろしい思いをした時の拒絶が鱗粉に悪い影響を及ぼしたとしても、責めるわけにはいきません。
事実、誰ひとりとして──クロックモンでさえ、モルフォモンを咎めはしませんでした。
中の人は大和田仁美さん。
「デジモンアドベンチャー:」にプッチーモン(赤)として出演したり、本作においても
エレキモン(紫)として出演していましたがメイン格ゲストとしての参加は初めてです。
最近見てる「まちカドまぞく」ではしっかり者の妹として出演していますね。
・モブのみなさん
モルフォモンの影響を受けてしまったデジモンはガンマモンの他にも複数おり、
序盤に登場したポテモンと、中盤のヌメモンはその典型例です。
この二例はクロックモンが対処したので大事には至っていないのですが、
同様のことがどれぐらい起こったのかはわかっていません。
鱗粉は最終的に空を埋め月が赤く見えるほどに増えていたため、
衛星を撃破してこれらを焼き払えないままなら恐ろしいことになっていたはずです。
一体をきっかけにこれほど深刻な事態に陥るとは。
その他、瑠璃のアンゴラモン捜索中にレッパモンがワンカット再登場しています。
気に入ったのか、あれ以来ずっとあの竹林を塒にしているようですね。
・研究者
モルフォモンを捕まえていたアマチュア研究者。
デジモンのことを知らないらしく、あれこれ調査したことがモルフォモンに恐怖を与え
鱗粉に乗せたメッセージに凶暴化作用を与えるまでになってしまいました。
悪意ではなく、無知と興味本位でこのような事態を招いてしまったタイプです。
ただし成果を挙げて名声を掴もうという野望があってのことでもあるので、
純粋に探究心だけの行動とは言い切れないでしょう。
結果的にはクロックモンにサーバを強奪され、名声を得るどころか
自前のデータのほとんどを失う憂き目に遭いました。
あとでそっと返してもらったとしても、そこにモルフォモンはいないわけです。
デジモンを捕まえた人間ということでどういう類の輩かと思いましたが、
その場限りの人物以上の扱いではありませんでしたね。
そういう扱いなら出番が短くてもしょうがないところはあるけど。
★名(迷)セリフ
「逃ゲ、ロ…ルリ…!」(アンゴラモン)
オーディオを介しモルフォモンの赤い鱗粉の影響を食らって。
メイン三体の中ではただ一人、わずかながら理性を残していますが
とうてい長くは保てないほど強烈な影響を受けていることがわかります。
なお凶化時には成長期段階では珍しく、両目が露わになっています。
状況が状況なんでちっとも有り難みがないけど。
「よもや今生の別れになるやもしれぬぞ…?」(マミーモン)
宙たちに相談を受け、対処を急がねばならないと結論づけて。
この手のデジモンにこんな声で言われるとシャレになりません。
実際、下手を打てばそうなっていた可能性が高いでしょう。
「こんなのもやってたのよね〜。ピッタリこなかったけど」(瑠璃)
凶化アンゴラモンを前に得物を構えながら。
何気にバコさんの「昔ちょっとな」張りに汎用性がありそうなセリフです。
「ラーメンのちょい足し用に作った秘蔵のニンニクラー油漬けだーっ!」(宙)
コショウの缶が転がった時のガンマモンの反応から閃き、捕まえて口へ叩き込みつつ。
君、そんなもの作ってたのね……しまいには趣味でハムでも作りはじめそう。
一人キャンプといい、一人で人生を愉しむ術をあれこれ身につけているようです。
この歳でそれだとちょっと心配になるけど。まあ今はガンマモンがいますが。
なおこの後ワサビ、カラシ、タバスコと次々にガンマモンの口へぶっ込みます。
甘いものが好きなガンマモンにとっては、鱗粉の影響が吹っ飛ぶほどの刺激だった模様。
元に戻った後も含めてなんとも気の毒になる場面ですが、なにせ非常時である。
たぶん「辛いぞ」と言われたものには口をつけようとすらしなかったんだろうな……
「ったく…モルフォモンの位置特定と、衛星を破壊できる角度の算出を同時になんて…
人使いの荒い…っ!」(清司郎)
などと言いつつ顔はニヤけています。
無茶な要求であればあるほど燃えてしまうタイプなのでしょう。
こんなことができるのは自分だけ、という天才としての自信と自負もあるでしょう。
「みんなは集中して!」(瑠璃)
「あいつらの相手はオレたちがする!」(クロックモン)
衛星狙撃作戦の現場に現れた凶化アンゴラモンとジェリーモンに相対して。
なんとも凸凹コンビですが面白い状況。
サンライズパースでゴルフクラブを構える瑠璃が無駄に頼もしいですね。
「ありがとう! 守ろうとしてくれて!」(瑠璃)
「ありがとう、信じてくれて……」(アンゴラモン)
元に戻ったアンゴラモンと瑠璃のやり取り。
瑠璃はアンゴラモンが強烈な鱗粉の影響と必死に戦っていたことを見抜き、
だからこそ自分にもなんとか抑えることができたのだとわかっていたのでしょう。
アンゴラモンはアンゴラモンで、あんな状態になった自分をそれでもなお信じ、
一時的におかしくなっただけと一歩も引かなかった瑠璃に感謝を隠しませんでした。
この一件を経て、あるいは最も絆が深まったコンビかもしれません。
「一寸先は赤い闇。
さりながら、晴れない闇もまたなし。
今宵は春の、いい月夜……」(アンゴラモン)
今回のアンゴラポエムです。
アンゴラモンとしては自分がモンスターであり、時として大切な存在であるはずの
瑠璃をも傷つけてしまいかねない時があることを改めて自覚したのでしょう。
けれど、瑠璃はその闇が晴れることを信じ続けてくれた。
銀色に戻った月は、彼にとっていつも以上に尊いものに見えたことでしょう。
★次回予告
アヤタラモン初登場。完全体ですからかなり手強そうです。
どういう経緯で人を狙うようになったのでしょうね。タイトル通りの愛情なのか、
それとも実は次回も人間が絡んでるのか……