人喰ノ森
脚本:佐藤寿昭 絵コンテ:西森章 演出:鹿島典夫
作画監督:李少雷/仁井宏隆/舘直樹/金久保典江/桜井木ノ実/服部益実/杜伟峰/陈亮
総作画監督:西野文那
★あらすじ
ガンマモンを伴い、キャンプ場にやってきた宙。
いつもの調子を取り戻しつつあるガンマモンに、宙は不思議な感覚でした。
あのグルスガンマモンは、本当にガンマモンと同一の存在なのか──
むしろ、まったく別の存在のように思えてならなかったのです。
そんな折、妙な音を聞きつけて調べに向かった二人は異様な光景を目撃。
さらに木々が無数に動き出すのですが、これらには実体がありません。
赤い霧に追われるようにして逃げる途中、宙を不気味な動く枝が捕まえます。
これは虚像ではありません。
果たして、その本体はジュレイモンという恐ろしいデジモンでした。
最近になって突如この森に現れ、迷い込んだ人々を食って力をつけていたのです。
森に先住していたモリシェルモンから話を聞いた宙達はともに立ち向かうのですが、
ジュレイモンへの攻撃指示を宙が躊躇ったのもあって危機へ陥ってしまいます。
そこへ、キャンプ場の神隠しの噂に不穏を察知した瑠璃たちが駆けつけました。
態勢を立て直した一行は、ジュレイモンの体の弱い箇所を狙って集中攻撃。
これが奏功し、この強敵を退散させることに成功するのでした。
「神隠し」に遭った人々も無事に戻り、どうにかピンチを脱出した一同。
徐々に確実に、凶悪かつ強大なデジモンの存在が明らかとなりつつあります。
★全体印象
16話です。今回は「森」が舞台。
森といえば古来から人間にとっては恵みを与えてくれる場所であると同時に、
迷い込めばどういう危険が待っているかわからない恐ろしい場所でもあります。
もっと言えば、どんな不思議が隠れていても不思議ではない神秘の空間でもある。
そんな森の奥で、人知れずデジモンたちの縄張り争いが繰り広げられていました。
こういうお話において、ジュレイモンというのはまさにドンピシャの選定でしょう。
アニメ初登場となるモリシェルモンもあくまで自分のルールで物事を語っており、
なかなかいい塩梅のキャラになっていたと思います。
今回はまた、お浚いのようにグルスガンマモンの話題が出ています。
これに関連し、宙がベテルガンマモンに相手の命を奪うような行動をさせられず
危機を呼んでしまう場面がありました。
これは、今後において課題が撒かれた流れだと言えるでしょう。
どう答えを出すかはともかく、さすがに何もないということはないはず。
脚本は佐藤寿昭さん。キンカク / ギンカクモン姉弟を担当した方ですね。
作監については何人か初めて見る類の人がおりますが、桜井木ノ実さんについては
80年代初頭からの大ベテランと認識しています。
前半の作画が崩れ気味なのは、この方以外の新顔が原因かもしれませんが定かではなし。
決めつけはまあ良くないですね。
その代わりバトル作画、特に終盤はかなりの出来栄えでした。
選択と集中、というやつでしょうか。
★キャラなど個別印象
・宙
少し前にちょろっと出た「キャンプが趣味」という布石が回収されました。
同じキャンプ場に何度も行っているようで、スタッフの顔馴染みになってるほか
以前は北斗パパとも一緒に来た経緯があることもわかりました。
セリフからみてパパではなく、彼の方が大体を仕切ってた可能性が高いですが……
しかし今回はその趣味が災いして、とんだ騒動に巻き込まれてしまいます。
この過程でベテルガンマモンへの攻撃指示が遅れ、かえってピンチへ陥ってしまう場面も。
いかなる理由があろうと、相手の命を奪うようなことは避けたいという彼の性格は
ずっと一貫しているところなんですが、デジモンにも「死」があると実感した今では
より強い気持ちに育っていると考えるべきでしょう。
今回の場合、それが裏目に出てしまったことになるのですが。
いずれもっと抜き差しならない状況へ陥り、グルスガンマモンが再び現れるのは確実。
そのとき宙がどんな判断を下すのか、当面の最大注目ポイントはそこかもしれません。
・ガンマモン → ベテルガンマモン
いつになくベテルガンマモンでいる時間が長いです。
実際どれぐらい成熟期の姿を保っていられるのかはわかっていないのですけど、
技を使わなければそれなりに長いこと退化せずにいられるのでしょうか。
緒戦時のバトルでは、このベテルガンマモンの炎でジュレイモンを梃子摺らせましたが
宙の躊躇いもあって枝に捕まってしまい、ジュレイモンに食われかける憂き目に陥ります。
瑠璃たちが駆けつけてこなかったら危なかったでしょう。
後半のバトルではテスラジェリーモン、ジンバーアンゴラモンの攻撃で脆くなったところを
ソルブローで突撃し、ジュレイモンの右腕二本を吹っ飛ばす活躍を遂げています。
このあたりの一連は作画的に今回のハイライトのひとつ。
前半、無邪気にキャンプを楽しむ様子は対比のように働いています。
宙にとっては頼もしいパートナーであると同時に、その心をできるだけ守ってやりたい
まさに幼い弟のような存在になりはじめているのでしょう。
その気持ちがより裏目に出るときが来るとしても、最悪のケースは回避して欲しいものですね。
・瑠璃組
瑠璃が今回のファインプレー賞その1です。
宙から反応がないことを気にしており、清司郎に調査を依頼しました。
おかげでキャンプに行っていることがわかり、救援が間に合っています。
宙にとっては地獄に仏ってところでしょうな。
まあ、瑠璃にとっては好奇心もだいぶ入ってそうですけど……
バトルでは前回に続いてジンバーアンゴラモンが登場。
続けざまに格上が相手とあって単独でも見せ場は少ないのですが、
連携を取って痛手を与え撤退させることはできています。
・清司郎組
ファインプレー賞その2はジェリーモン。
本当はよくないのですが宙のパソコンから履歴を読み取り、
神隠しの噂があるキャンプ場に行っていることを突き止めています。
清志郎は相変わらずビビり倒しており、そう簡単にスイッチは入らないのですが
瑠璃ともども成熟期進化ぐらいは労せずやってのけるようになってきてますね。
なんだかんだ付いてくるあたりにも責任感の強さが窺えるところ。
あと他人の部屋に無断で入るのを良しとしないところも良識派って感じです。
ジェリーモンが勝手に入ったのでそれどころではなくなってますが。
・ジュレイモン
モリシェルモンの森に最近になって現れたという、植物型の完全体デジモンです。
前作にあたる:にもワンカット出演してますが、正式なゲストキャラとしてはセイバーズ以来
およそ16年ぶりの登場ということになりましょうか。
しかも敵ながら思慮深い知恵者でピノッキモンの側近でもあった無印デジアド版や
森の長老然とした味方寄りのセイバーズ版と異なり、人を迷わせては捕まえて食らうという
ガッチガチの凶悪デジモンとして描写されています。
ジェリーモンが知っていたあたり、そのタチの悪さはかなり知れ渡っている模様。
ただ調べたかぎり、実は今回が一番デジモン図鑑の設定に近い性格です。
ヤタガラモンなんかもそうですが、今期はデジモン図鑑などを参照した上で
これに沿ってキャラ立てをしている節が目立つんですよね。
結果として、このジュレイモンのように完全ヒールと化すケースもあるのでしょうけど。
森においては幻覚を見せる赤い霧をばら撒いて獲物を追い込み、ツタを伸ばし取り込んで
自らの栄養としてしまいます。霧の中ではそこらじゅうの葉に目玉のようなものが現れますが、
あれも幻覚かまたはジュレイモン自身が伸ばした視覚を象徴しているのかもしれません。
いずれにしても、一度赤い霧に迷い込んだら簡単には逃げられないでしょう。
さらに今回は知恵よりもパワーが強調されており、枝から変化した複数の太い腕に掴まると
成熟期のパワーではまず抜け出すことができません。
このパワーは格闘戦にも発揮され、モリシェルモンを一方的にボコっていました。
しかしさすがに炎には弱く、ベテルガンマモンの技はかなり有効でした。
緒戦では宙の躊躇いに乗じる形で終始にわたり優位を崩しませんでしたが、後半戦では
この火に弱い特性を衝かれてソルブローで右腕を二本吹き飛ばされてしまってます。
それ以上の痛手を嫌ったのか、捨て台詞を残して逃げてゆきました。
大樹モチーフらしく、本作では相当の年数をかけないと再生できないらしいです。
本作恒例の撤退エンドですが、強キャラ感はなかなか出せていたと思うので
なんとか追い払った、という着地にした点についてはまあ仕方ないかな、という印象。
取り込まれたと思しき人々まで解放されたのは、ややご都合感が拭えませんけれど
ひとまず後味は悪くないですね。
中の人は青森伸さん。御年80歳を数える大ベテラン声優のひとりです。
「ドラゴンボール」のキビトや「ダイの大冒険(第1作)」のマトリフ、
「機動武闘伝Gガンダム」のカラト委員長など、強面ながら少々コミカルな役が多いです。
今回のジュレイモンも凶悪な造形ながら、セリフにはお茶目なものもありました。
・モリシェルモン
アニメ初登場。
ジュレイモンが現れた森にもともと住んでいたという成熟期の軟体型デジモン。
界隈を「オレの森」と称していましたが、当然ながら勝手にそう宣言しているだけです。
彼に言わせれば、人間のやってることも大して変わらないのでしょうけど。
特徴として緑色の霧をばら撒き、ジュレイモンの赤い霧を中和することができます。
これは設定として存在する必殺技「マインドフォッグ」に相当するものですが、
幻影を見せる目的では使用されていません。おそらく中和のみに作用しているのでしょう。
格闘戦を挑んだりもしていますが、ジュレイモンのパワーにはかないませんでした。
性格としては「ジュレイモンより話はわかるが人間の味方というほどでもない」造形。
劇中では森に誘い込まれた人間を自分のテリトリーに匿ったりしていましたが、
それはジュレイモンに力をつけられては困るというあくまで彼自身の事情が動機です。
面倒なので眠らせているだけと処置も雑で、状況を放置しておくのはどのみち危険でした。
こういう自分本位で別に親切ってわけじゃない造形、実のところ嫌いじゃないです。
とはいえ別れ際には「保証はできないよ」と答えつつ善処はすると言外に示しており、
根は少なくとも「交渉の成立する相手」であることが改めてわかります。
まあ、彼としては雑なことをして宙たちに見咎められても面倒だから仕方なく、でしょうが
それはそれでもよかろう、といったところですね。
中の人は松野太紀さん。言わずと知れた「デジモンセイバーズ」のアグモン役です。
まだ50代前半ですが芸歴は40年以上にわたり、さまざまな作品に出演しています。
お名前をよく見かけるようになった90年代は線の細い役も多く、「セーラームーンSS」の
ペガサスことエリオルはその代表格のひとつ。
「クロスウォーズ」でのルーチェモン役は、そのエリオルのイメージが強めなキャラですね。
ただしフォールダウンモードじゃない方。
★名(迷)セリフ
「ちょっとぉ! 最後のは無し!」(瑠璃)
「まったくだ! 変なフラグを立てないでくれたまえ!」(清司郎)
ガンマモンの基本進化形態3つに加え、グルスガンマモンの名を出した宙に。
やはりこの二人に関しては、宙よりもだいぶ警戒心が強いようです。
14話からこっち、ずっとハラハラしっぱなしなのでしょう。
でもまあ実際、この話題が出たこと自体も布石のひとつでしょうね。
「宙が未読スルーなんて珍しいのよ!」(瑠璃)
宙が寮の部屋にいるかどうか確かめてほしい、と清司郎に頼んだ際のセリフ。
基本、宙はメッセージが来ているとわかれば確認だけはすぐするようです。
今回はキャンプ地で圏外だったので、来てることも知らないわけですが。
それとここでは、グルスガンマモンのことで少し言いすぎたと思い
フォローを入れたがっていたことがわかっています。
地味なようですが、こーゆー細かい積み重ねって効いてくるんですよね。
「人間…おとなしくワシの年輪の一部になるがいい」(ジュレイモン)
宙に手を伸ばしながら。初めて姿を現したときのセリフです。
この「年輪」というキーワードは、彼のセリフの中にたびたび登場するもの。
それこそが彼にとって、物事の最上位に位置する価値観なのかもしれません。
「この森…?
小僧、ここは『オレの森』だ。言葉に気をつけろ」(モリシェルモン)
この森で何が起こっているんだ、と宙に訊かれて。
明らかに機嫌を損ねてます。こういうキャラのこういうところ、嫌いじゃないけど。
まあいきなり肉体言語に訴えないだけマシではあるんですが。
「こうなりゃ一蓮托生だ!
おい! ヤツに食われるか、霧の中で眠り続けるか、選べ!」(モリシェルモン)
こちらもモリシェルモンから。一蓮托生、という言い回しが植物っぽいです。
瑠璃が即答でどっちも嫌だと答えますが、それは織り込み済みの誘導尋問。
実のところ、人間を食うわけではなさそうな彼にとってもこの選択は
どっちも不本意なところではあるのでしょう。重荷を抱えるようなもんですから。
「驕れる年輪、久しからずや……
老兵は風に舞う落ち葉のごとく消え去るのみ……」(アンゴラモン)
今回のアンゴラポエム。
尺度は不明ですが長く生きているであろうジュレイモンの、その年輪に比例した
強大さから来る驕りが彼の敗北をもたらしたのだろう、という感じの総括ですね。
聞こえているのかいないのか、瑠璃には華麗にスルーされています。
★次回予告
次回のテーマは「寒さ」。これも人類の潜在的な恐怖のひとつですね。
見たところフロゾモンらしきシルエットが見て撮れるのですが、このデジモンは
豪雪地帯での「救助」が主任務。吸い込んだ雪を利用することはあっても、
自ら冷気を出すことはないはず…… ということは、他に何者かが?