カマイタチ

脚本:森地夏美 演出:池田洋子 
作画監督:澤木巳登里/舘直樹/北野幸広/井手武生
総作画監督:石橋大輔/金久保典江

★あらすじ

 いきなり突風が吹き、街灯が割れたり看板が断ち切られたりする現象が多発。
 宙の学校でも注意喚起がなされていました。とても偶然とは思えません。

 そんな中、瑠璃は不審と不満を募らせていました。
 最近アンゴラモンが夜な夜な行き先も告げず、一人で出かけてゆくからです。
 二人の間に微妙な空気が流れはじめていました。

 こうした事情もあり、良さげな写真を撮ろうと一人で竹林にやって来た瑠璃。
 そのとき、言い争うような声とともに突風が吹き、竹が何本も寸断。
 瑠璃のカメラも真っ二つにされます。明らかに異常事態でした。

 果たして、突風の正体はレッパモンというデジモン。
 鎌のような尻尾と獣の本体が別々の意志を持ち、争いあっていたのです。
 尻尾は自らの切れ味を振るいたがり、本体は妄りに誰かを傷つけたがらない。
 両者は平行線をたどり、しまいには本体の方が業を煮やして
 尻尾を切り落とそうと試みはじめてしまいます。

 レッパモンは駆けつけたカウスガンマモンとアンゴラモンの連携によって
 取り押さえられましたが、両者の溝は埋まらないまま。
 瑠璃はそんなレッパモンに自分とアンゴラモンを重ね、一緒にいるのだから
 なんとか折り合いをつけてゆけないかと説得をします。

 渋る両者に具体的な提案を出したのは、アンゴラモンでした。
 実は彼はデジモンたちの集会に顔を出して情報集めをしていたのです。
 集会のことを妄りに話すことは止められていたため、瑠璃にも黙っていたのでした。

 一連をキッカケに、レッパモンはひとまず自分同士での争いを止めました。
 そして、瑠璃とアンゴラモンの絆はいっそう強まってゆくことになったのです。
 
 
 
 
★全体印象
 
 11話です。
 今回のモチーフは古来から怪現象として伝わる「カマイタチ」。
 不可解に皮膚が裂けることから妖怪や神などの超自然存在による影響と囁かれており、
 近年では気圧の差によって真空の刃が生まれて皮膚を傷つけるという説や、
 飛んできた石粒や急激な寒さで皮膚が裂けるためという説が支持されているアレです。

 その実態はレッパモンだったわけですが、争いあうようなセリフ回しが
 前半はうまい具合にミスリードとして働いていたように思えます。
 瑠璃とアンゴラモンが主体だったので、後半はアンゴラモンの進化を期待したのですけど
 フタを開けてみればカウスガンマモンとアンゴラモンの連携で事を収めていました。
 遅くとも年内には成熟期が出揃うと思っていただけに、ペースの遅さが際立っています。

 結局このあたりは、本作の作風によるところが大きいのだと思います。
 これまでのデジモンアニメは、デジモンが襲ってくれば問答無用で戦って倒すか、または
 ぶん殴って正気に戻し戦闘を放棄させるかの二択ぐらいしかありませんでした。

 翻って本作では「相手の言い分を聞いて無難な落としどころを見つけてもらう」という
 第3の選択肢があり、しかもそれがメインになっています。前期とは真逆とさえ言える。
 強敵とガンガン戦って勝ってゆくのではなく、謎を追ってゆく過程が重視されている、
 と言い換えてもいいでしょう。

 本作のデジモンたちは総じて知性が高いので、そういった流れも成り立つわけです。
 だから、必ずしも進化を急ぐ必要がないのかもしれません。
 5話あたりでも書いた気がしますが勝つ必要がないし、だからこそ作れるものもある。

 良し悪しや賛否は置いといて、成功か失敗かで語るのはまだ早いように思います。
 ただ、こういう作品なのだという前提で見た方がいいのは確かでしょう。
 頭を切り替えて、その上で精査して行くしかないと思います。

 脚本は森地夏美さん。
 7話といい、デジモンの設定を見てそこから話を作ってるように見えます。
 デジモンが主役なので、それがひとつの手段であるのは間違いないところですけど
 どちらの話も「これ解決になるのかな?」なオチになってるのは少し気になりますね。
 

 
 
★キャラなど個別印象
 
 
・宙

 前半、瑠璃にアンゴラモンとのことを話されて
 「そんなことオレに言われても……」的な表情をしてたのがちょっと印象的。
 瑠璃としては単に聞いてもらいたかっただけかもしれませんし、
 それなりの助言をしたのはボコモンの方でしたけど。

 後半ではカウスガンマモンの背中に乗って瑠璃を助けに現れましたが、
 そのままの状態で戦い続けています。なにやら:を思い出す状況。
 
 
 
・ガンマモン → カウスガンマモン

 チョコパフェを綺麗に食べられなくて宙にお世話してもらう場面が
 やたら愛くるしくて印象的でした。
 後半ではカウスガンマモンへ二度目の進化。打って変わって果敢な姿を見せます。
 彼がレッパモンを止め、アンゴラモンがダメ押しをした形。
 
 
 
・瑠璃

 昔ながらのカメラを使って「映える」写真を撮りまくっていました。
 後半で竹林を訪れたのもこの「映える」のため。
 一方、夜ごと出かけていて行き先も事情も話してくれないアンゴラモンには
 不審と不満を募らせており、前半では突き放すような態度が目立っています。

 気まずくなるとは聞いていたのでなら空気を悪くするのは彼女の方かな、とは
 なんとなく予感してましたけど、その通りになりました。
 アンゴラモンの方から、というのが想像できなかったというのもあります。

 でも事件を通して「不満をぶつける前にちゃんと向き合うべきだった」と気づき、
 改めてアンゴラモンに向き合いその気持ちを考えると約束しています。
 レッパモンのケガの功名ってヤツでしょうか。カマイタチだけに。

 今回進化はなりませんでしたが、この二人については時間がかかるかもしれません。
 とか思ってたら次回でヘロッと進化したりするかもしれませんけど、
 それ以前にウェズンガンマモンすらまだなんだよな……
 
 
 
・アンゴラモン

 夜の間、瑠璃に黙ってどこかへ行っていたことで彼女に不審がられてしまい、
 気まずくなってしまうという悪い流れを招いてしまっていました。
 ただ彼の方は困惑するばかりで、売り言葉に買い言葉みたいな展開にはなってません。
 穏やかすぎるほど穏やかな性格なので、よほどのことがないと激しないんでしょうけど。

 もちろん何かヤバいことに手を出しているわけではなく、デジモンたちの集会に顔を出して
 情報集めをするためでした。この集会のことは人間に話してはいけない原則があるので、
 当初はそれを守って瑠璃にすら話していなかったわけです。
 結果的にはレッパモンの件をキッカケにその原則を破ることになったわけですけど、

 彼に落ち度があるとすれば言葉足らずだったことで、後ろめたいことがないなら
 出かけている件について大雑把にでも話をするべきだったのかもしれませんが、
 当の瑠璃から突き放されてるので言いづらい面はあったと思います。
 あとなにげに結構オカン気質なところがあるので、それが瑠璃の神経に障った感じ。

 瑠璃からの親愛度は最終的に上がったので、終わりよければすべてよしな流れでした。
 結局、ツンツンしていたのは瑠璃の方だけでしたし……

 戦闘では単体だとスピードが足りず、レッパモン相手には不利でしたが
 駆けつけたカウスガンマモンの一撃にうまく繋げ、動きを封じることに成功しています。
 進化した仲間との連携で格上に当たる相手を押さえ込んだ例と言えますね。

 
 
・清司郎

 ゲーマーであるという設定を開示したそばから、さっそくゲームに興じておりました。
 その後ジェリーモンにせがまれてカメラを買いに出かけていましたが、
 瑠璃からの救援要請はちょうど電車に乗っていたので応答せず、現場には行っていません。
 あとで色々言われたと思います。
 
 
 
・ボコモン

 もはやレギュラーに収まりつつある人。
 今回もガンマモンとのやりとりがありました。割と気が合うようです。
 瑠璃に助言をしたり、年長者っぽいところも見せてました。

 アンゴラモンと物知りなところが被ってるのは確かなんですが、戦闘力は皆無なので
 アンゴラモンでもわからないことを知恵者専門のポジションから解明したり、
 アンゴラモンが手を離せないときに謎の解明に手を貸してくれるなど
 棲み分けをする余地はありそうに思います。

 ちなみにバクモンはいませんでした。別件で手が離せなかったのかな。
 
 
 
・レッパモン

 成熟期の聖獣型デジモン。
 妖怪の鎌鼬(カマイタチ)によく似た姿をしており、太極図に似た文様や紅白の注連縄など
 キュウビモンやヨウコモンと似た印象もあります。
 「セイバーズ」では薩摩隊長のパートナー、クダモンの成熟期としても知られ、
 同作の27話でちょっとだけ登場したりもしていました。

 もともとの設定では刃のような尻尾にも意志があり、死角がないらしいのですが
 この尻尾と本体の意見が対立して悶着を起こすこともままあるということです。
 今回のケースは、それが拗れに拗れた場合を想定して組み立てられたのでしょう。

 また森や林の中での戦闘を得意とするという設定も活かされており、アンゴラモンに
 「ここじゃ分が悪い」と言わしめています。
 竹林なのは絵になるのと切れた竹自体が凶器となること、最終的にそれを逆用して
 動きを封じ込める展開へ繋げるためなのだろうと思います。

 本体は尻尾との折り合いをつける手立てを見つけられず、切り離すという形で
 死をも覚悟の訣別をしようとしていましたが、それは本心ではありませんでした。
 尻尾の方も実のところは自分の切れ味を活かすことができれば不満はあまりないようで、
 はからずも排除対象が同じになった際にはしっかり連携をとっていたりもしました。

 この辺りを瑠璃に見抜かれたのか、本体の方は瑠璃の説得を受けて思いとどまり
 尻尾の方もアンゴラモンの提案に乗ったことで、その場はなんとか収まりました。
 ただ、本当にうまくいくのかどうかはまだ何とも言えない雰囲気ですね。

 本体の中の人は松風雅也さん。
 「電磁戦隊メガレンジャー」のメガブルーこと並樹瞬役への抜擢でデビューした方ですが、
 今となっては声優としてのキャリアの方が有名かもしれません。
 「ゾイド新世紀スラッシュゼロ」のバラッド・ハンターや「鉄血のオルフェンズ」の
 ガエリオ・ボードウィン、「映画Yes!プリキュア5GoGo」のビターあたりが
 個人的には印象的です。「シンカリオンZ」でも現役レギュラーですね。

 尻尾の中の人は乃村健次さん。
 渋いながら重すぎない声という貴重なポジションに立つ名バイプレイヤーの一人です。
 デジモンシリーズにも縁が深くナニモン、バベルさん、ゴグマモンと色々やってますが
 一番出番が多かったのはやっぱりアルボルモンでしょう。
 いかんせん、敵側闘士では最も扱いがぞんざいなヤツだったのはナンですが……
 
 
 
・デジモン集会のみなさん

 アンゴラモンが顔を出していた集会には結構な数のモブデジモンがいました。
 ポテモン、ドクネモン、エレキモン、ムーチョモン、フローラモン、ラブラモンなど
 成長期オンリーで構成されているようです。
 フローラモンに関しては、アンゴラモンに紅茶まで淹れていました。

 人懐っこかったり人間の世界の文化に興味があるデジモンたちが、
 自然とコミュニティを作る形になったようですね。なんか猫集会っぽい感もあるけど。
 人間に知られないよう振る舞ってるのもある意味「弁えてる」と言えます。

 そのぶん、力のないデジモンがほとんどな傾向がある感じですね。
 レッパモンが加わったとして、果たしてうまくやっていけるでしょうか。
 
 
 
 
★名(迷)セリフ
 
 
「あっ、薬液が混ざるから撮影直後のものは振らない方が……」
「あ、写真…ちょっとブレちゃってるから、先に構図を決めた方がいいかもよ」(アンゴラモン)

 
 ちょっとオカンっぽいというか、捉えようによっては「余計なお世話」なセリフ。
 といっても相当控えめに提案してるんですが、不審を抱いている瑠璃にとっては
 かえって鬱陶しく響いてしまったのかもしれません。

 それにしてもアンゴラモンさん、あなた人間じゃないのにホント詳しいですね。
 
 
「おれ、キレイに食べたぞ〜」(ガンマモン)
 
 チョコパフェを食べて口元ベタベタなところを宙に拭われて。愛くるしい。
 あとこれ単なる悪意ゼロの虚言とも取れますが、ガンマモン的には
 「最強パフェをキレイに平らげた」という意味かもしれませぬ。
 
 
「きっと事情があるのじゃろ。相手を信じて待つことも大切じゃい」(ボコモン)
 
 どうしてアンゴラモンが何も教えてくれないのか、と零す瑠璃に。
 一般論に近い助言ではありますが、この場合は概ね正しい方向性でした。
 
 
「寮長たるもの、ルールは守らないとね。あとでかけ直すよ」(清司郎)
 
 瑠璃からの着信が来た際のリアクション。ちょうど電車の中でした。
 実際、ネットはともかく通話を大っぴらにやっている人はほとんど見かけませんので
 彼の対応は間違いなく正しいものだったと思います。タイミングが悪かっただけなのです。

 この無反応に対し、瑠璃のコメントは「あの役立たず〜!」と辛辣でした。
 あとでかけ直した際にそうとう恨み言を言われたと思います。
 
 
「今日、いけそう! おれ、飛べる! 瑠璃、助ける!」(ガンマモン)
 
 現場に急ぐ道中で。
 進化の分岐というものは二人の気持ちの合致もそうですが、それ以前として
 「何をしたいか」にも大きく因ってくるところがあるみたいですね。
 7話の初進化も「飛びたい」「飛べ」という「目的」「意志の合致」が重なってました。

 そういえば、カウスガンマモンの背中からはグリップが伸びて宙が乗れるようになってます。
 こういう「共生のための構造」ってすごい好きなんですよね。サブマリモンとかホルスモンとか。
 今回の目的のために新たに獲得した構造、とかだとさらにベネ。

 あと直後の「しっかりつかまってろよ!」は何かガンマモンの方が兄貴っぽいです。エモい。
 02の7話で大輔を抱えて跳ぶフレイドラモンを思い出しました。
 
 
「お前さえいなければ!」(レッパモン尻尾)
「それはこっちのセリフだっ!」


 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと枢木スザクかお前らは。 
 互いに最も理解し合えるはずの間柄でありながらぶつかり合う。ある意味での王道です。
 そんなこと言ってる場合じゃないぐらい拗れちゃってますけども。
 
 
「不満をぶつけ合うだけで…そんなことで二人の隙間が埋められるわけがない。
 互いの気持ちを譲り合わないと…!」(アンゴラモン)


 瑠璃の救援に駆けつけ、レッパモンの実力排除も辞さぬ態度で。
 たぶんレッパモンのみを見て言ったことで、当て擦りではないはず。
 しかし彼のこのセリフは瑠璃に「だからこそ『二人』にはこのままでいてほしくない」
 と決意させる原動力となります。
 
 
「無理なわけないだろうが! 誰よりキレイに切ってやらぁ!」(レッパモン尻尾)

 アンゴラモンに「レモンを均等に切るのは難しい、無理ならいいけど」と言われて。
 自分の切れ味だけでなく、その精密性にも絶対の自信を持っていることがわかります。
 彼にとってはそれが全てなのかもしれません。
 単純とも言えるし、お前それでいいのかとも思いますけど。
 本体のセリフ通り、うまくやっていけるかどうかはまだ未知数な状態です。
 
 
「あたし、これからはアンゴラモンの気持ち、ちゃんと考える! 約束!」(瑠璃)

 雨降って地固まる、というやつでしょうか。それにしても暖かそうです。
 
 
「膝を交え腹を割れば、心をもって心に伝う……」(アンゴラモン)

 上の直後、瑠璃をそっとハグしてのセリフ。ますます暖かそう。
 今回のアンゴラポエムです。これは彼の流儀というか、気持ちの整理なのでしょうね。
 
 
 
 
★次回予告

 次のモチーフは古くから伝わる悪意「不幸の手紙」。
 瞬時に拡散され、どこまでも増殖するデジタル時代のこの悪意に、次から次へと増えて
 なかなか根絶できない雑草=ザッソーモンを絡めてくるとは発想の勝利ですね。さてさて。