巨大究極体チンロンモン
脚本:吉村元希 演出:梅澤淳稔 作画監督:八島喜孝
★あらすじ
パイルドラモン、シルフィーモン、そしてシャッコウモン。
勢ぞろいしたジョグレス進化体と、ブラックウォーグレイモンが天下分け目の大決戦をはじめました。
さしもの黒い龍戦士も渾身の必殺技で傷つき、大輔たちの前に初めて膝を突きます。が、それでもなお彼は止まりません。
戦いの間になんとかホーリーストーンを移動しようと試みる子供たちは、D-3を使うことを思いつきます。
すると各地のホーリーストーン跡からふしぎな光が集まり、五色の燐光となって天を貫きました。
そこから現れたものは巨大なる雷童。デジタルワールドの安定を司る四霊、四聖獣チンロンモンが姿を見せたのです。
チンロンモンは戦おうとするブラックウォーグレイモンを制止し、彼に心が芽生えたことにはかならず意味があると説きました。
その言葉に理解を示しながらも目的と居場所を失ったブラックウォーグレイモンは、独りデジタルワールドを去っていきます。
月光の陰をたどり、たとえ千年かかろうともみずからの生きる意味を知るために。
脅威は失せ、チンロンモンがホーリーストーンの跡地へ光の種を植えたので、これ以上の混沌も阻止されました。
蒼龍は語ります。世界の危機がどのようにあらわれ、それへどのように対策を講じていったのか。
そしてデジモンカイザー、ひいてはアルケニモンたちを操っていた邪悪の意志はまだ消えていないというのです。
子供たちは胸をなで下ろしつつ、決意を新たにするのでした。
しかし現実世界での帰途、大輔はそこにあるはずのないものを見た気がしてならなかったのです。
暗黒のオベリスク、ダークタワーの影を……
★全体印象
37話です。タイトルコールは小杉十郎太さん(チンロンモン)。
影絵も当然チンロンモンで、いくつかの分身がひとつに合わさるイメージで描かれていました。
複数のホーリーストーンの光がひとつに集まる劇中の描写を暗示したものでしょうか。
今回で黒ウォさんが一時退場なのですが、お話のキモはなんといってもチンロンモンと、その口から語られる裏話でしょう。
戦闘は前半だけですが、八島氏の作画と演出がうまく噛みあっていてなかなか見応えのあるものに仕上がってます。
ただ、鳴り物入りで登場したシャッコウモンの出番があまりないのは残念と言わざるをえません。
そのどう見ても完全体レベルを越えたデタラメな戦闘力は描かれていたので、インパクトならあるんですけど。外見だけじゃなく。
後半はほとんどチンロンモンの独演会でした。細かいネタばっかりですから、下で語りましょう。
今回の演出を担当した梅澤淳稔氏は、シリーズ全てにかかわっているスタッフのひとりです。
演出としての力量は素人目に可もなく不可もなし。よく言えば安定しており、縁の下の力持ち的イメージがありました。
フロンティアが終わった後まもなくプロデューサーに転向し、デジタルモンスター・ゼボリューションを担当、
デジモンセイバーズでも連名のひとりとして参加しました。いわば、デジモンを盛りたてつづけてきた立役者のひとりなのです。
ファンは足を向けて寝られないでしょう。
★各キャラ&みどころ
・大輔
今回は全体的にフラットな活躍の子供たちですが、こういうときはやっぱり彼が頭ひとつぶん目立ちます。
デジモンたちに任せきりにせずホーリーストーンを何とか動かそうと考え、そのためにD-3を使うことを思いついたのは彼でした。
つまり、チンロンモン登場とブラックウォーグレイモン退散のきっかけを作ったことになります。
これは大きな貢献だったと言っていいんじゃないでしょうか。
逆境にあっても皆に勇気をあたえることこそ、終盤における大輔の最大の役割。
その闇の本質を見抜き、ゆえに闇を恐れないほとんど特殊能力みたいな本領もちょっとだけ見せていました。
ダークタワーを誰よりも早く見たのは彼です。少なくとも、あのメンバーの中では。
まあ、あの場合は単にたまたまタイミングが合っただけとも言えますけど。
・京
大輔と仲良くケンカしてる場面が一番目立ってます。ギャグ調なのでやっぱり深刻さゼロ。
このふたりにとってはレクリエーションみたいなもんなんでしょう。
大人になってもきっとくだらない事でくだらないケンカができる、そんな間柄のまんまなんでしょうね。
ちょっぴり悪友どうしっぽいイメージもあったり。
・伊織
前回までと違ってだいぶ引いた立場です。五人全員が目立っていると、どうしてもこういうポジションに落ち着きがち。
それにしても36話とくらべて実に淡泊な顔だ。これはこれで味があるんですけどね。
油やソースでギットギトの料理を食べたあと、ウーロン茶を飲んだときの感覚みたいなものと例えればいいでしょうか。
・タケル
大輔と賢の次ぐらいには目立っています。
34話のセリフからもうちょっと突っ込んだ見解を聞くこともできますね。詳しくはセリフコーナーで。
・ヒカリ
伊織同様、別人みたいに顔が変わってますがこれもアニメの醍醐味。
というか八島作画だと淡泊さがきわだって目立つ人物なので、まさに前回との真逆を描いてるんですよね。
お話としてはほとんど相づち役ですが、黒ウォに共感したり賢の発言の意図を読み取ったり、感受性は発揮してます。
・賢
ちょっと久々にセリフが多いです。
いつのまにか共に戦うのが当たり前になってましたけど、この回でのやり取りがたぶん第二のきっかけでしょう。
次回からは名実ともに正式な仲間と認められ、終盤の展開へ区切りがつけられることになります。
・デジモンたち
なんといってもシャッコウモンです。
特異な外観どおりすばやい動作や接近戦が不得手のようですが、ふたつの強力な必殺ワザはそれを補ってあまりあるもの。
特にアラミタマは予備動作がほとんどないので、たぶん究極体レベルの力がないと避けられません。
ニギミタマも、複雑な曲線を描く回転ノコが無数に襲いかかってくると考えればどれほど厄介な技かわかるというもの。
しかもその刃はクロンデジゾイトさえも破壊できるのです。あの黒ウォさんに初めて盾を使わせたばかりでなく、
その盾でさえもズタズタに切り裂いていたことから、威力のほどがわかるのではないでしょうか。
が、やはり最大の特徴は防御能力。
ガイアフォースはおろかデーモンのケイオスフレアでさえ無効化してしまうのですから、明らかに完全体を越えてますね。
これによってパイルドラモンらの後ろで支援したり、いざとなれば前に出て攻撃を防ぐ要といえる位置におさまりました。
たぶんエンジェモンの暗黒に強い性質と、アンキロモンの防御力が相乗された結果なのでしょう。
三大ジョグレス体の戦闘能力も、いよいよ完成の域へ近づいてきました。数は少なくても先輩たちに引けはとりません。
ここに皇帝龍ファイターモードが加わった時の力で倒せなかったのは唯一、デーモンだけです。
・中華デジタマモン&バクモン
大輔たちを襲おうとしたアルケニモンらを妨害、チンロンモン登場の一助を担いました。
描写こそギャグ風味でしたが、果たした役割はなかなか大きいものがあります。
ラスト付近では聖なる泉を守ってくれたお礼として、子供たちに大量の点心を振舞っていました。太っ腹です。
強力なウリがあるぶん、洋食屋のほうより儲かってるのかもしれませんね。
そのわりにほかの客がいなかったけど。
・ブラックウォーグレイモン
というわけで、一時退場です。
しかしながら、 実質的にはここで構成上の役割も終わってるんですよね。46話と47話は言わば決着篇ですし。
今回で、自分の存在そのものが調和の敵であるという事実を知りました。
その時に悟ったのでしょう。自分がなんのために生まれてきたのか求めていたつもりが、答えはチンロンモンではなく
自身の中……生まれる前からの宿命にあり、それに動かされていただけだったということに。
それこそが反ホーリーストーンであり、デジタルワールドの調和の力を乱すダークタワーの力だったのです。
だから彼は姿を消したのかもしれません。
この世界のバランスを混沌へ傾けるのが作られた目的であり、彼自身の意志になんの関わりもないものだとすれば、
去ることこそが反逆であり、最初の自由意志になるからです。
デジタルワールドの破壊は彼にとって、もう意味を見いだせない行動になってしまったのでしょう。
しかしだからといって、そこにいるだけで世界の調和を乱す彼の宿命が消えるわけではありません。
そして彼には生きる目的も、生きる場所もない。ただおのれの意志と、自分自身への信仰を頼りにするしかなくなったのです。
最後の咆哮は行く手に待ち受ける限りない孤独と、それを感じることのできる自分への呪詛に聞こえました。
呪われた魂。呪われた者。そんな彼の心が邪悪なものではないというのはやはり、それ自体が課せられた罰なのかもしれません。
けれど、自分の意志さえあれば生き方は自分で決められるし、今回のように宿命へさからうこともできるのです。
それこそが何より大切なのだと気付くためには、長い旅路が必要でした。
・チンロンモン
ついにその巨体を現しました。ホーリーストーンの光を吸収したデジヴァイスの力で覚醒を果たしています。
ビジョンではあまり大きさがわからなかったのですが、実際には雲をも覆いつくすほどの大きさ。
これほど巨大な究極体は全シリーズ通しても、彼ら四聖獣ぐらいしかいないでしょう。
力が弱まっているという設定ですが、不動のままブラックウォーグレイモンを怯ませるなど底知れぬ実力の持ち主。
一体どうしてダークマスターズに負けてしまったのか、にわかには信じられないほどです。
ダークマスターズ自身が四聖獣のちからを弱める特性を持っていて、それにより封じられたのでしょうか?
そうとでも理由をつけなければちょっと納得できない感じですね。
性格としては超然としつつも公平を旨としたもので、これはテイマーズ版にも通じます。
四聖獣はあらゆるメディアで他のデジモンと一線を画す位置づけになっていますが、彼はその代表格といえますね。
知性や威厳、超越者としての厳しさなど、あらゆる意味において神にもっとも近い存在です。
たぶんあれが、われわれ日本人の考える神様像ってやつなのでしょう。
声は小杉十郎太さん。精悍な声から人間だけでなく、異形のものも数多く演じる言わば人外声優のひとりです。
主役側敵役側問わず、その多くにどこか堂々としたところがあるのもあのかっこいい声の賜物でしょう。
本来もっと芸風が広いはずなんですが、私としてはやっぱり二枚目のイメージが強いですね。
・世界の傷み
ダークタワーにデジタルワールドを混沌へ傾ける力があるということが、やっとハッキリ示されました。
そういえば、大輔たちに露見するのはこれが初めてになるんですね。
かつてスパイラルマウンテンが作られたとき、デジタルワールドは混沌のきわみにありました。
元に戻したのは選ばれし子供たちですが、世界を安定させたのはどうやら四聖獣の力だったようです。
しかしそれでもなお足りず、太一らの紋章を引っかき集めなければならなかったのですね。
これによって紋章も失われ、完全体進化が困難になったわけですが、ということはチンロンモン一体だったことの説明もつきます。
ほかの三体はいまだ完全な状態ではなく、姿を現すことすらできないということなのではないでしょうか?
だからチンロンモンがホーリーストーンを打ち込んで、世界が完全に安定するのを待つことになったのかもしれません。
ところがご存知のとおり、デジモンカイザーの出現とダークタワーの乱立であらたな危機に立たされることになりました。
チンロンモンは口に出しませんでしたけど、ダークタワーが立ってるだけでもバランス維持が難しくなるのかもしれません。
対抗するために古代の力を引っ張り出し、タケルとヒカリにも例外的にバージョンアップ許可を出したぐらいですから、
相当ひっ迫していたんだろうと思われますね。
しかしやがて、新たな選ばれし子供たちでさえ対抗し切れない敵が現れました。それがブラックウォーグレイモンです。
彼によってホーリーストーンが次々と破壊されたために、デジタルワールドの基盤はたいへん脆弱になってしまいました。
一見正常に見えいるようでも、この時点ですでにかなり危うい状態に陥っていたのです。
結局、ブラックウォーグレイモンはその使命を八割方達成してしまったのでしょう。黒幕が次に狙うのは、現実世界。
内と外から境界を揺さぶられ、デジタルワールドはのっぴきならぬ事態に追いやられていくことになります。
ひとりの男の失われた夢から生まれた、昏い我執によって。
・ところで
どうもブイモンたちが眠りについたのは、デジモンカイザーが現れた後という疑いが出てきました。
たぶんアグモンたちと同じように、デジタマ状態で封印されたのでしょう。
どうやって大輔たちを選び出したのか、それはわかりませんが。
そうか、古代からずっと眠ってたわけじゃなかったのか……
よく考えてみれば当たり前かもしれませんが。
★名(迷)セリフ
「やったか!」(三大ジョグレス体&大輔)
このセリフが出て本当にやられていたケースを見たことがありません。
というか言っちゃダメです。
「何故だ……なぜそんな生きかたができるのだ……
俺に教えろ……! 俺はなんのために生まれてきたのだ……!!
俺はなぜお前たちとこんなに違うのだ……!!!
それを知ることができないというのなら……この世界を終わらせてもかまわない!!!!
教えろおおぉぉぉおおおッ!!!」(ブラックウォーグレイモン)
自分の求めるものが得られないなら、このクソッタレな世界を巻き添えにしてもかまわない。
最近はそういう破滅的で、悪であることに誇りを持てない最悪な連中が幅をきかせているようですが、
黒ウォさんの動機は悪意でも凝り固まった正義感でもありません。破壊のむなしさも知っており、そのせいで痛みも感じています。
だから不幸な命と言われたりするのでしょう。
ところで、彼は自分の生まれた意味を探しながらも答えは他者に求めていました。
結論を出すのは自分自身だと言われたことは思いのほかショックというか、目からウロコだったのかもしれませんね。
「この東方の地に立つ暗黒の塔……あれこそが我が力を封じるものだ!」(チンロンモン)
まるで02の舞台がデジタルワールドの東エリアだけだとでも言わんばかりの勢いです。
もともと02のデジタルワールドは地形がどうなってるのかよくわからないので、解釈ができてしまうというか……
矛盾してると思ったことがそうじゃなかったり、その逆だったりしそうな感じなんですよね。
「そこへ至るまでの過程がいかなるものであったとしても、その存在にはかならず意味があるのだ…」(チンロンモン)
ただし、それを見つけるのはてめえ自身という注釈が後ろにつきます。
よく考えてみたらちっとも答えになってないんですが、黒ウォさんの発想を変えるには大きなきっかけになったようです。
他者ではなく、自分のなかに答えを求めなければならないということを教えられたのですから。
「俺はあんたに会えてよかった……あんたはこの俺の存在にも、かならず意味があると言ってくれた。
……たとえそれが、忌み嫌われるものだとしてもだ……」(ブラックウォーグレイモン)
しかし、生まれる時に持たされた宿命は消せません。
このセリフからみても、彼はもうこのデジタルワールドに居場所が無いと知ってしまっている。
重ねてきた破壊活動もそうですが、自分の存在そのものが世界を歪ませてしまうのなら、もうここにはいられない。
望まずして呪われたちからを持たされた自分が周りからどう思われているか知っていて、
そこに痛みを感じていなければ出てこない言葉でしょう。
「なんて…悲しい声……」(ヒカリ)
ヒカリはそんな黒ウォさんの苦しみと悲しみを、かなりダイレクトに感じているようです。
やはり、いっぺん腹を割って話し合う機会があったほうがよかったかもしれませんね。
「ぼくは違うと思う。
たしかに、暗黒というのは恐ろしいものだけど……できれば、全てなくしてしまったほうが安心できるかもしれないけど……
きっと、それは不可能なんだ。光があるところには、かならず闇が存在するんだ。
だからどんなに暗い闇の中でも、自分の中に光を見失わないことが大切なんだと思う」(タケル)
最終話ラストシーンにも懸かってるセリフですね。
チンロンモンが言っているようにこれこそが希望であり、 今のタケルの考え方でもあります。
タケルは闇を根絶やしにしてしまうことが不可能だと知っているのです。大切なのはそれに負けないことだと知っている。
それだけに、闇に負けて安易に力へ溺れるような者を許せないのでしょう。
だからでしょうか、彼の怒りは黒ウォやアルケニモンたちよりもデジモンカイザーにより強く向いていたようです。
望めば光を掴むことができる場所にいながら闇を選ぶことは希望や人間性そのものへの冒涜であり、
闇を故郷とする者より糾弾に値するという考えなのかもしれません。
セイバーズの倉田あたりなどは彼がもっとも嫌悪するタイプでしょうね、やっぱり。
「いや、あいつらの頭で考えうることではない」(チンロンモン)
今回の事件がアルケニモンたちの企みなのかと伊織に聞かれて。
さりげに毒舌です。当たってるけど。
「一乗寺くん。美味しいよ。いっしょに食べよう」(タケル)
たぶんタケルは賢を許してはいないけど、闇から抜け出して前に進もうとしている姿勢は認めているはずです。
一度は絶望を味わい、それでも共に生きるために再び戦う道を選んだ姿にかつての自分をも重ねているかもしれません。
このセリフは、そんな賢へ初めてタケルのほうから声をかけたといってもいい場面。
次回とあわせ、賢ちゃんがほんとうの意味で仲間に迎え入れられた瞬間だったのでしょうね。
躊躇う賢の後ろで肉まんをハフハフしている伊織が可愛らしい。
★次回予告
デジモンシリーズとしては唯一のクリスマスネタです。
これ以降、フロンティアまで毎回クリスマスCDが出ることになりました。たぶん売れたんでしょうね。
名曲の多さではやっぱりクリスマスファンタジーが一番ですけど。
ベイベー、クリスマスだぜ。